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M&A 事例・コラム

DD(デューデリジェンス)とは?意味や種類、実施するタイミングについて解説

最終更新日:2023-12-10
DD(デューデリジェンス)とは

M&Aを行う際に実施するDDというものがあります。DDはM&Aを行う際に、対象会社と基本合意書を締結した後に実施し、企業の価値や実態、リスクなどを把握するための行為です。

しっかりDDを行わないと、想定外のトラブルやリスクを背負うことになってしまいます。では実際DDにはどのような種類があり、どのような目的で行うのかを解説していきます。

DDとは

DDとはデューデリジェンス(Due Diligence)の略称で、日本語では買収監査と呼ばれています。ビジネス取引や投資の際に行われる綿密な調査プロセスです。主に対象企業やプロジェクトの色々な側面を徹底的に分析し、情報の正確性を確認します。財務データや財務諸表の調査に加えて、法的、業界、競合、人事、環境などの分野も評価の対象です。

デューデリジェンスの主な目的は、リスクを最小化し、適切な判断材料を提供することです。これによって、投資家や取引相手は情報不足や意外なリスクから保護され、合理的な意思決定を行うことができます。デューデリジェンスの過程では、詳細な調査と分析が行われ、調査結果が報告書や提案書としてまとめられます。

各分野の専門家やコンサルタントが関与し、財務、法務、技術、市場、環境などの観点から情報を収集し、評価します。デューデリジェンスの結果を通じて、ビジネス取引の成功確率やリスクの評価、詳細なプランニングが行われ、資産の評価、合併・買収、新規プロジェクトの実現性などの要素が評価される重要なプロセスと言えるでしょう。

DDの目的とは

ではデューデリジェンスは具体的に何のために行うのでしょうか?デューデリジェンスの目的4つを解説します。

企業価値の評価

デューデリジェンスで企業価値を評価する際には、財務諸表や業績報告などを確認するだけでなく、簿外債務などの可能性を考慮して総合的な判断が必要です。なのでデューデリジェンスを行う際には財務諸表に留まらず色々な情報を調査し、分析することになります。

リスクの評価

デューデリジェンスで潜在的なリスクを特定し、その影響や可能性を評価します。法的、財務、経営、環境などのリスクを洗い出し、それに対する対策を検討します。

新たなビジネスチャンスの発見

またデューデリジェンスは基本的に企業価値の確認や、リスクの評価などが主な目的ですが、新たなビジネスチャンスを見つける事ができる場合もあります。対象企業の技術や製品と自社のビジネスとどのようなシナジーがあるか、また新たな市場機会の発見につながる可能性があります。

統合をスムーズにするための情報収集

M&Aの成否にはM&Aの後に行われる統合のプロセス(PMI)にかかっていると言われています。PMIはM&A後の統合効果を最大化するための統合プロセスです。

PMIが上手く行われる事でシナジーが最大限発揮されます。そのため情報収集を行い、どのようにPMIを行うかを決めていくか考える事が大切です。

DDの8つの種類

一言で「DD」と言っても、いくつかの種類に分類されています。ここからは、DDの8つの種類について一つずつ確認していきましょう。

DDの種類①財務デューデリジェンス

財務デューデリジェンス(財務DD)とは、買収対象企業の財務や会計などの調査を行う事を指します。貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書などの主な財務諸表を詳細に調査、分析します。正常収益力などの基礎情報や、不正な経理処理などが無いかなどのリスクを洗い出して確認します。また財務デューデリジェンス(財務DD)により簿外債務などのリスクを発見する事が出来ます。

M&Aを行った後に債務が発覚した場合、買い手企業が債務処理をする必要があるので、想定外の資金繰りが発生してしまう事がありますが、財務デューデリジェンスを行えばそのリスクを減らすことが可能です。

DDの種類②法務デューデリジェンス

法務デューデリジェンス(法務DD)とは、買収対象企業の債権・債務の状況や契約状況、人事・労務の状況等について、法務上のリスクや問題点が無いかを調査、検討します。

また買収対象企業に許認可が必要な事業を営んでいる場合には、必要な許認可の種類や取得状況などを確認したりもします。

法務上のリスクや問題点を抱えていると、訴訟を起こされた場合に想定外の時間やコストが掛かる可能性があります。法務デューデリジェンスを行えば、事前にそのような法的リスクを把握することができ、買収対象企業の問題点の解消や、場合によってはM&Aの中止などの判断をする事が出来るようになります。

DDの種類③事業デューデリジェンス

事業デューデリジェンス(事業DD)とは、買収対象企業の事業モデルや経営管理方法、労使関係、将来的なキャッシュフロー等、会社の経営や事業に関係する項目すべてを調査し分析します。事業デューデリジェンスは買収対象の企業の強みと弱みを把握し、これからどうして行くのか将来の見通しを立てるのが主な目的で行われます。


DDの種類④税務デューデリジェンス

税務デューデリジェンス(税務DD)とは、買収対象企業の税務に関する調査です。税務デューデリジェンスでは、これまでの税務申告書や税務調査に関連する資料などを分析し、繰越欠損金や追徴課税のリスクの状況を確認して、税務リスクに関係する調査・分析を行います。

税務デューデリズジェンスを行うと税務リスクの把握と繰越欠損金などの税務ポジションを把握し、将来的なキャッシュフローに反映させて、企業の価値を測ることが可能です。

DDの種類⑤人事デューデリジェンス

人事デューデリジェンス(人事DD)とは、買収対象企業の人事制度全体や組織、労務管理などの調査です。

買収対象企業から提供された情報を確認、分析してM&A成立後のPMIをスムーズに行うために、人事制度や組織をどのように統合していくか事前に想定するために行います。

DDの種類⑥ITデューデリジェンス

ITデューデリジェンス(ITDD)とは、買収対象企業の情報システムを調査しどのように統合するか決めるために行います。またITデューデリジェンスは、システムデューデリジェンスとも呼ばれています。ITデューデリジェンスを行うと、買収対象企業の情報システムの価値や、どのぐらいコストが必要なのかを知ることができます。

DDの種類⑦知的財産デューデリジェンス

知的財産デューデリジェンス(知財DD)とは、買収対象企業の有する知的財産(主に特許、商標、デザイン等)がリスクを抱えていないか、価値は適正に評価されているか等を調査し、検討する事です。

知的財産デューデリジェンスでは、知的財産関連のリスクの評価と対応策を検討する事が主な目的です。知的財産デューデリジェンスを行わないと、ライセンス料を支払うリスクや、その買収対象企業の技術や製品が使えないなどのトラブルになる可能性があります。

DDの種類⑧その他デューデリジェンス

その他のデューデリジェンスを紹介します。

  • 環境デューディリジェンス – 買収対象企業の事業やプロジェクトの環境への影響やリスク(土壌汚染や大気汚染など)を評価する調査です。
  • 不動産デューディリジェンス – 買収対象企業の土地、建物、環境などの状態とリスクを調査します。
  • 顧客デューディリジェンス –  買収対象企業の顧客の属性や支払い状況や取引履歴の状態を調査します。
  • 技術デューデリジェンス – 買収対象企業が、どのようなサービスまたは製品に関連する技術を保有しているかを評価分析する調査です。

M&Aをする際には、自社と買収対象企業に合わせた種類のデューデリジェンスを行い、その中で調査する項目を選択することが大切です。

DDを実施するタイミング

M&Aをするにあたって、デューデリジェンスを実施するタイミングは、一般的に対象企業と基本合意書を締結した後に実施します。基本合意契約の締結から1か月程度が目安です。

ただデューデリジェンスを実施するタイミングが早い場合、会社が潰れてしまうなどといった噂が流布されて、従業員や取引先に不安を与える可能性があります。また、逆にデューデリジェンスの実施するタイミングが遅い場合は、目を付けていた企業が違う買い手に先に買収されてしまうという事もあるでしょう。

なのでデューデリジェンスを成功させるには、適切なタイミングでデューデリジェンスを実施する事が大切と言えます。デューデリジェンスを実施するタイミングについても、M&Aアドバイザーや専門家等と相談しながら決めましょう。

DDに必要な期間

デューデリジェンスに必要な期間は、企業の規模やデューデリジェンスの範囲により変化しますが、一般的に1〜2ヶ月程度と言われています。小規模事業者や中小企業のDDは、数週間で終わる事もあります。一般的な調査にかかる期間の目安は、以下の通りです。

  1. 資料、デューデリジェンスの準備 – 2週間
  2. 調査、マネジメントインタビュー – 数日~2週間
  3. 分析、中間報告 – 1~2週間
  4. 最終報告、必要に応じて追加調査・分析 – 1~2週間

DDの進め方

デューデリジェンスは以下の手順で進めていきます。

①調査チームの設立

実施するデューデリジェンスに合わせて、担当者とその分野の専門家(公認会計士、弁護士、税理士、社会保険労務士など)とチームを設立します。

②期間と調査内容の決定

まずデューデリジェンスの期間を決めて、そこからどこの項目を重点的に調査するか、どれぐらい予算をかけられるか、調査期間が終わるまでのスケジュールを決めます。

③資料の開示

買収対象企業にデューデリジェンスに必要な資料を開示請求します。組織図や決算書類、知的財産権の保有状況、得意先リスト、在庫データなどの資料を必要に応じて開示してもらいます。

④資料の分析

開示された資料を基にリスクや問題点の有無を確認したり、自社とのシナジー効果の確認などの分析を行います。

⑤マネジメントインタビューの実施

買収対象企業のマネジメント層などにヒアリングを行います。企業理念や経営者の将来のビジョンなどの資料だけでは把握できない内容なども確認すると、自社とのシナジーやどのようにPMIを行えばいいかなどをより明確にすることができるでしょう。

⑥調査結果の報告

開示された資料や、マネジメントインタビューを元に分析したデューデリジェンスの結果を報告し、自社でM&Aについて議論します。また更に検討すべき情報が見つかれば追加で分析します。

M&Aのリスクが大きい場合にはM&Aを中止することも検討します。また許容できるリスクだった場合でも、価格交渉や調査でわかった問題点などの改善策の提案を求めたりする場合もあります。

デューデリジェンスの費用

ではデューデリジェンスの費用はどれくらいが適切なのでしょうか。それぞれ規模や業種、依頼する専門家やコンサルタントによって変動するので一概にいくらぐらいと言うのは難しいですが、一般的な費用の目安を解説します。

中小企業の場合は、行うデューデリジェンスや規模により変動しますが、数十万~数百万円程度で、大企業や上場企業の場合は、行うデューデリジェンスや規模により変動しますが、数百万〜数千万円程度が目安です。

デューデリジェンスはリスク評価や適切な意思決定のために不可欠なプロセスであり、投資する価値があると考えられます。費用は情報の正確性とリスクの把握に関わる重要な投資として考え、事前に予算を適切に計画することが重要です。

デューデリジェンスの注意点

デューデリジェンスを行う際の注意点を解説していきます。

優先順位をつける

デューデリジェンスを行う際には、優先順位を付けて行いましょう。網羅的にすべて確認していこうとすると必要な期間が伸びてしまいます。

期間と予算にも限りがあるので、どこが重要かを見極めて調査を行うことが大切です。

規模に応じた範囲で行う

M&Aの規模に応じて、適切な範囲でデューデリジェンスを行いましょう。ただあまりに絞りすぎると、調査が不十分でリスクを背負う可能性もありますので注意しましょう。

機密情報の管理に気を付ける

デューデリジェンスでは、基本的に秘密保持契約を締結してから調査を行います。理由は買収対象企業の機密情報に触れることになるからです。入手した機密情報を外部に漏らしてしまわないように、細心の注意を払う必要があります。

専門家と連携する

デューデリジェンスを適切に行うには、専門家(公認会計士、弁護士、税理士、社会保険労務士など)との連携が必要です。

それぞれの専門家と連携しながら適切にデューデリジェンスを行いましょう。

まとめ│円滑なDDがM&A成功の鍵

これまでデューデリジェンスについて解説してきました。適切なデューデリジェンスはM&Aのメリットやリスクを把握し対策・検討することができます。

どのようにデューデリジェンスを行うか事前に計画を立てて、円滑にデューデリジェンスを行う事が、M&A成功の鍵となるでしょう。

売り手・買い手双方が、綿密なコミュニケーションを取って信頼関係を築きながらデューデリジェンスを行うと、買収・合併後のPMIがスムーズに進むので、デューデリジェンスを上手く活用しましょう。

監修者情報

笹本 拓実
笹本 拓実

2016年度公認会計士試験に合格後、EY新日本有限責任監査法人札幌事務所に入社、その後5年間法定の会計監査業務に従事。
2022年に退職し、株式会社Joblabにて管理部長に就任、コーポレート部門全般を管掌。2023年に共同代表である板井 理と株式会社PASONを設立。
代表取締役に就任し、小規模M&Aに特化したマッチングプラットフォームサービス「PASON」を運営している。