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M&A 事例・コラム

有限会社における事業承継とは?メリットや無償譲渡などについて解説!

最終更新日:2024-06-28
有限会社 事業承継

有限会社とは、これまで日本において認められていた会社の形態の1つです。

現在では、有限会社の新規設立は認められていませんが、有限会社として存続している会社はあります。

この記事では有限会社についてや何故新設できなくなったのか、また事業承継において、有限会社を承継するメリット・デメリットなどについて解説します。

有限会社とは

有限会社とは、1940年に施行された有限会社法によって設立が認められていた会社形態のひとつです。

2006年に会社法が施行された際に有限会社法が廃止されたため、それ以降は有限会社を新たに設立することはできなくなりました。

それまであった有限会社は、株式会社として存続することとなり「特例有限会社」と呼ばれています。

有限会社の一番の特徴は、有限責任社員と言われる社員の全員が出資者であることです。

この有限責任社員は、会社が倒産などによって多額の負債を負った場合でも、出資金額分しか責任を負わなくて済むというものです。

有限会社のその他の特徴は以下のとおりです。

  • 設立方法が発起設立のみ
  • 社員(出資者)の人数が50人以内
  • 資本金が300万円以上
  • 株券を発行することができない
  • 取締役の人数は1名以上
  • 役員の任期がない
  • 監査役の設置が任意
  • 社員の権利譲渡に制約がある

有限会社は、閉鎖的な会社を想定しているため、株式会社に比べて会社の機関設計を簡素化したものです。

これまでは、個人事業主から法人化や中小企業には適した会社形態でした。

なぜ有限会社は新設できなくなったのか

会社法施行によって、これまで厳しかった株式会社設立の要件が大きく緩和されました。

旧制度では、株式会社は1,000万円以上の資本金と規模に関わらず3名以上の取締役と監査役が必要でした。

しかし、小さな会社やスタートアップでもその規模に合わせ、株式会社を作れるよう制度が改正されたのです。

これにより資本金が1円でも株式会社が設立できるようになりました。

それに伴い、有限会社の少ない資本金で設立できる法人というメリットがなくなってしまいました。

また、その他にも株式会社設立の要件の改定が行われていて、取締役会や監査役の設置をしなくてもよくなっており、役員も1人いれば良いと変更されます。このような改定によって、株式会社設立のハードルが一気に下がり、これまでは有限会社が対応していた部分も含むようになりました。

そのため有限会社を制度として維持する必要性がなくなり、廃止されるに至ったという経緯があります。

有限会社の事業承継

有限会社の事業承継は、株式発行をしているかどうかで方法が変わります。株式を発行している場合としていない場合に分けて解説します。

株式発行している場合

株式発行をしている有限会社の場合は、後継者に株式を譲渡して経営権を移転することで事業承継を行います。

有限会社が発行する株式は「譲渡制限株式」と言われる株式であるため、譲渡するには株主総会で承認を得る必要があります。

ですが、有限会社が株式を発行している場合でも、株式会社として大きく成長して株主が大勢いるケースは稀です。

したがって株主総会を開くにあたり、多くの株主に対して招集の通知する手間を省略できる事が多いでしょう。

また譲渡制限株式については、譲渡制限株式とは?メリット・デメリットや付与する手順などを解説!で詳しく解説しています。

株式発行していない場合

株式発行をしていない有限会社の場合は、出資持分の承継をすることで事業承継を行います。

しかし、出資持分の名義を後継者に書き換えるだけでは引き継ぎは完了しません。

出資持分を後継者の名義に変更後、社員総会を開催してその場で取締役に選任してもらうことによって、引継ぎが完了します。

有限会社を事業承継する手法

有限会社を事業承継する手法は以下のとおりです。

  • 親族内承継
  • 親族外承継
  • M&Aによる承継

それぞれ解説していきます。

親族内承継

親族内承継は、有限会社に限らず事業承継において一番メジャーな方法で、経営者の子供や配偶者に事業承継するものです。

有限会社を事業承継する際に必要となる出資持分や株式などは、相続や贈与もしくは譲渡ができるため柔軟性があります。

親族内で承継が終わるためトラブルになる事が少なく、スムーズに承継が行えます。親族内承継のメリットは「スムーズに承継できる」「後継者を早くから教育できる」「従業員や取引先との関係を維持しやすい」といった点です。

一方で、親族内承継のデメリットは「経営権を集中させるのが難しい場合がある」「遺留分などのトラブルになる可能性がある」といった点です。

後継者の候補が1人だけでなく複数いる場合や、他の親族が経営に参加しているようなケースでは、後継者に経営権を集中させることが難しくなってしまいます。

また後継者に事業を承継する場合は、株式や事業用資産を集中して引き継ぐ必要があります。

しかし、相続に際して一定の相続人に保障されている遺産の一定割合である遺留分が、問題になる可能性があります。

他の親族が遺留分を侵害されたとして、遺留分減殺請求や遺留分侵害額請求をすると、株式が分散して後継者の経営権が弱くなる場合があります。

また遺留分については、事業承継における遺留分とは?民法特例の適用条件や適用する手順を解説!で詳しく解説しています。

親族外承継

親族外承継は、従業員などを後継者にする方法です。

親族外承継の場合も、すでに事業の全容を把握していたり取引先とも顔見知りだったりと、承継後の事業の継続がスムーズに進むケースが多くなります。

また、国が設置する公的相談窓口である事業承継・引継ぎ支援センター。このような公的機関を介して、外部から経営者を呼ぶ場合もあります。

親族外承継のメリットは「育成期間が短く済む」「従業員や取引先との関係を維持しやすい」「経営方針をそのまま引き継げる」といった点です。

親族外承継の場合は、すでにその会社の従業員が経営者になるため、基礎的な部分を省略することができ育成期間が短く済みます。

また、後継者が古くから働いている従業員であれば、他の従業員や取引先が事業承継に対して不信感を抱くリスクが低く済みます。

一方でデメリットは「経営方針が変わる場合がある」「引き継いでくれる後継者がいない可能性がある」という点です。

親族外承継の場合、株式であれば譲渡する方法もありますが、この方法の場合では後継者が株式を買い取る資金を持っている必要があります。

そのため引き継ぐ意思はあるものの、資金面で後継者になれない場合も少なくありません。

また親族内承継に比べ、経営方針に口出しすることができないため、経営方針が変わってしまう可能性があるでしょう。

M&Aによる承継

M&Aによる承継は、会社の経営権を個人や別の会社に譲渡する方法です。

M&Aと言えば大企業などが行うイメージになってしまいがちですが、後継者不足問題が顕在化してからは中小企業の承継によく用いられる方法です。

M&Aが成立すると買収された会社は基本的にはそのまま存続することとなり、事業も継続されていくことになります。

M&Aによる事業承継のメリットは「売却によりまとまった資金が得られる」「身近に後継者がいなくても承継できる」「企業理念を引き継いでもらえる」という点です。

M&Aによる承継が成功すると会社を存続させることができ、経営者は事業を売却することによってまとまった資金を得る事ができます。

経営者が高齢で引退を考えているようなケースでは、老後の資金を得るためにM&Aを行う場合(ハッピーリタイアメント)もあります。

有限会社を事業承継を行うメリット

有限会社を事業承継するメリットは様々あります。

ここからはどのようなメリットがあるのか具体的なメリットについて解説していきます。

経営の継続性を保てる

経営の継続性を保てる点が、有限会社を事業承継するメリットの1つです。

経営権を持つものが変わったとしても、後継者がいるのであれば会社そのものは存続することができます。

企業が残ることによって、ブランドやその名前を維持できるため、顧客や取引先から信頼を保てる点もメリットと言えるでしょう。

税制の優遇措置が受けられる

有限会社を事業承継するメリットとしてあげられるのが、税制面において優遇措置を受けられる点です。

具体的には、事業承継税制による特例措置で、相続税や贈与税の納税猶予または免除を受ける事ができます。

事業承継を行う場合は、事業資産や株式など多額の資産移動を伴うことも多いため、企業の負担を大きく軽減することがメリットと言えます。

事業同士のシナジーが望める

事業承継によってシナジー(相乗効果)を得られる可能性があることも、有限会社を事業承継することのメリットのひとつです。

すでに事業を行っている会社に事業承継されることにより、生産から加工・流通・販売までを賄えるようになり、効率化され利益をさらに上げられる可能性があります。

技術やノウハウを共有し、複合することによってより優れたものを生み出せる可能性も秘めています。

このように事業承継することによって二つの会社がこれまであげていた利益を合算するのみならず、それ以上の利益を生み出す可能性を秘めている点がメリットと言えるでしょう。

優秀なノウハウや人脈を活用できる

企業がそれまでの事業活動によって蓄積したノウハウや、人脈などを受け継ぎ活用することができる点もメリットとして挙げられます。

事業承継によって得た優秀なノウハウや市場の顧客データなどを活用することで、さらに効率的に利益を上げられる可能性がある点がメリットです。

有限会社を事業承継を行う注意点

有限会社を事業承継するメリットについて解説しましたが、もちろん注意点も存在するため解説していきます。

事業承継に一定の費用と時間がかかる

事業承継を行う場合は様々な手続きが必要になります。

そのためどうしても事業承継に一定の費用と時間が必要です。

事業承継が完了するまでの間に経営に影響が出てしまわぬように、しっかりと事前に計画を立てて準備することが大切です。

また様々な法的な手続きに関しては、専門家に依頼せざる負えないケースも少なくありません。そのような依頼料や報酬などの経済的な負担が発生する場合があるため、余裕を持って計画を立てる必要があります。

また事業承継を行う際には、デューデリジェンス(DD)と呼ばれる経営状態や財務状況、法的リスクなどの調査を実施することが一般的です。

デューデリジェンスを行わずに事業承継を行うと、簿外債務と言われる貸借対照表に表れていない債務が存在する場合もあります。

このような状態になってしまうと、事業承継の際の買収価格にも、当然反映されていないため、その分の損害を被る可能性があります。

またデューデリジェンスについては、DD(デューデリジェンス)とは?意味や種類、実施するタイミングについて解説で詳しく解説しています。

経営に関係するリスクを負うことになる

有限会社を事業承継するさいの注意点として、経営に関係するリスクが伴う点があげられます。

後継者が新たに掲げた目標や戦略などが合わない従業員が、流出してしまう可能性があります。

また新たな体制になり、業務内容が変わることにより組織が不安定になってしまうなどの、経営する上でのリスクにも気を付ける必要があるでしょう。

有限会社を無償譲渡した場合の税務

有限会社を無償譲渡した場合の、事業譲渡側と事業譲受側の税務についてそれぞれに分けて解説します。

無償で事業譲渡する側の税金

無償で事業譲渡する場合の税金について、「消費税」「法人税」「所得税」に分けて解説していきます。

  • 消費税

対価を伴う取引が発生したときに生じる税金です。そのため無償譲渡の場合は、税務上寄付金や贈与等とみなされるため、消費税が課税されません。

  • 法人税

法人が無償譲渡する場合は、対価を受け取りませんが、税務上は時価に対して法人税がかかります。

  • 所得税

個人が事業譲渡する際に課せられるものです。

個人間の事業譲渡では、譲渡側に課税されません。一方で個人から法人に事業譲渡する場合は、税務上は、譲渡側にみなし譲渡所得税が課せられます

無償で事業譲受する側の税金

無償で事業譲受する場合の税金について、「所得税」「法人税」「贈与税」に分けて解説していきます。

  • 所得税

譲受側の個人と譲渡側の法人が無償で事業譲渡を行う場合には、雇用関係によって税務が変わります。

個人と法人が雇用関係にある場合は給与所得として扱われます。それ以外の場合は一時所得です。

  • 法人税

個人と法人の無償事業譲渡の場合は、譲受側の法人は税務上、時価で資産を取得したとみなされます。

これは特別利益である受贈益として扱われ課税されます。

  • 贈与税

個人から個人に対して無償で事業譲渡する場合は、譲受側には受け取った資産の時価に対して贈与税がかかります。

まとめ│有限会社の事業承継は株式会社とほぼ同様に行う

ここまで有限会社の事業承継について解説してきました。

有限会社は、有限会社法が廃止されたためもう新設されることはありません。

そのため有限会社特有の形態はなくなりつつあり、事業承継についても有限会社と株式会社の差異はなくなりつつあります。

有限会社の事業承継を行う際は、株式を発行しているかいないかによってその承継方法は変わります。

どのような会社においても事業承継には税金が発生するため、事業承継税制が適用されるかが重要な要素となっています。

また会社が抱えている問題によって適切な承継方法が変わるため、承継前のデューデリジェンスがとても大切です。

事業承継を行うと、その事業を継続することができたり既存の事業とのシナジーを生み出す可能性があったりする点がメリットです。

しかし一方で、どうしても事業承継には時間がかかってしまったり、従業員が辞めてしまったり業務の変化によって会社が不安定になってしまうデメリットがあります。

そのため事業承継を検討する際は事前にしっかりと計画を立て、定期的に計画通りに進んでいるか確認したり、必要に応じて計画を修正する必要があります。

また専門家に相談し意見を取り入れることで、事業承継をより成功させやすくなるでしょう。

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監修者情報

板井 理
板井 理

2018年度公認会計士試験に合格後、EY新日本有限責任監査法人札幌事務所に入社、その後3年間法定の会計監査業務に従事。
2022年に退職し、2023年に共同代表である笹本 拓実と株式会社PASONを設立。代表取締役に就任し、小規模M&Aに特化したマッチングプラットフォームサービス「PASON」を運営している。