事業譲渡とは?従業員への影響や手続き・事業譲渡契約書について解説
最終更新日:2024-03-30会社経営を続けていく上で、さまざまな決断を迫られることがありますよね。企業にとって明るい未来を築くために「事業譲渡」を検討することは非常に大切なことです。
会社運営で、よりスムーズ且つ効率的な経営を目指す場合、事業譲渡だけでなく株式譲渡や会社分割などの選択肢があります。
「事業譲渡にはどんなメリットがあるのだろう?」「従業員や取引先への対応はどうすれば良いの?」など、疑問に感じている方も多いかもしれません。また、会社分割との違いも気になるところです。
そこで今回の記事では、事業譲渡とはどのようなものなのか?従業員への対応や主な手続き、メリット・デメリットについて詳しく解説していきます。
事業の売却をお考えの方や、買収を検討している方の参考になると幸いです。
目次
事業譲渡とは?
事業譲渡とは、会社の中の事業の一部、または全てを他の会社へと売却することを指しています。M&Aにおいて、頻繁に用いられる方法のひとつです。
会社の中で行なっている事業を一部分だけ売却する方法を「一部譲渡」と言い、会社の全ての事業を売却することを「全部譲渡」と呼びます。
大きな特徴は、事業売買の選択に自由度が高い分、全て個別での手続きが必要になるので時間や手間・コストがかさむことです。
目的はさまざまですが、企業の経営を立て直し収益の向上を図る際に用いられます。また、ある特定の事業分野から撤退したいと考えたケースにも使用されるでしょう。
会社分割と混同されることも多いのですが、会社分割では包括継承が採用されているため「個別での契約」が必要ありません。
手続きがスムーズで、比較的短期間で済ますことができます。会社分割と事業譲渡の違いは、吸収分割の意味とは?種類や事業譲渡との違い・手続きの流れまで徹底解説!の記事でも解説していますのでチェックしてみてください。
事業譲渡をすると従業員はどうなるの?
事業譲渡の際に気になるポイントとして、真っ先に思い浮かぶのが従業員への対応ではないでしょうか?事業を売却する際に注意する点は「事業」の中に「従業員」も含まれているということです。
従業員だけでなく、会社の資金・設備・不動産・取引先・ノウハウに至るまで、多くのものをまとめて「事業」と呼んでいます。
会社の一部、または全ての事業を売却する際に、従業員への雇用契約は白紙に戻ってしまうことになるのです。買い手側の会社と、個別に再契約が結ばれることとなります。
従業員にとっては、数々のデメリットが生まれる結果となるのです。考えられるデメリットは次の通りとなります。
- リストラされるケースもあり得る
- 勤続年数がリセットされてしまう
- 待遇が悪くなる可能性も
- 新しい環境に慣れるまで時間がかかる
- モチベーションの低下につながる
このような点から、新しい職場で仕事を続けていくべきか躊躇してしまう人も多くなります。
買い手側の企業と再契約した場合、前の職場での待遇面が引き継がれることが一般的ですが、継続年数がリセットされてしまいます。そのため、退職金なども考慮して、会社を離れるという決断を下す人もいるでしょう。
退職希望者への退職金の支払いに関しては、売り手側の企業が支払う義務があります。
事業譲渡の主な手続きとは?
ここからは、事業譲渡における主な手続きについて確認していきます。
- 取締役会で決議を行う
- 売買先の企業を選定する
- デューデリジェンスによって対象となる事業を調査する
- 事業譲渡契約書の締結を行う
- 株主総会特別決議を実施する(必要ない場合も有り)
- 効力発生
大まかな流れは上記の通りです。株主総会特別決議においては、簡易事業譲渡に相当する場合には必要ありません。
事業譲渡におけるメリットとは
ここからは、事業譲渡の際に「売り手側」と「買い手側」双方から見たメリットについて詳しく解説していきます。
売り手側のメリット4選
売り手側から見たメリットは、大きく分けると4つあります。
- 会社自体をそのまま残すことができる点
- 事業の売却で現金を得ることができる点
- 残したい事業や社員、取引先はそのまま残すことができる点
- 後継者がいない場合の解決策となる点
ひとつずつ確認していきましょう。
会社自体をそのまま残すことができる
メリットの1つ目は、会社をそのまま残すことができる点です。選択した特定の事業のみを売却し、残った事業でそのまま経営を続けることができます。
法人格が存続しているので、新しい分野での事業をスタートさせることも可能です。新会社を設立するには、多くの時間や手間・コストが必要となります。
しかし、新しく会社を立ち上げることなく、新規事業に進出することもできる点は大きなメリットと言えるでしょう。
事業の売却で現金を得ることができる
2つ目のメリットは、売却時に現金を手にすることができる点です。事業譲渡は、会社の規模を小さくしたい、スリム化したいというときだけに使われるわけではありません。
新規事業へ参入するためには、大きな費用が必要となります。新しい設備に投資を行ったり、専門のプロジェクトチームを作るための人件費なども欠かせません。新規事業への参入を検討したときに、資金調達のひとつとしても、効果を発揮してくれます。
もちろん、負債を抱えていた場合には、返済に充てることも可能ですので、譲渡代金を得られることは大きなメリットになるのです。
残したい事業や社員・取引先はそのまま残すことができる
3つ目のメリットは、株式譲渡のように「全てを売却する」という必要がなく、残したい事業や社員などを指定して残すことができる点です。
これは、事業譲渡における最大の特徴であり、メリットだといえます。特に一部の事業を売却した後に、新たな事業を始めようという計画があるケースでは、必要な従業員を残せることは非常に有利に働くでしょう。
後継者がいない場合の解決策となる
メリットの4つ目は、後継者不足の問題を解決できることです。現代の日本では、後継者不足が深刻な問題となっています。
「会社を存続させたい」「従業員の雇用を守りたい」と考えていても、後継者がいないことによって、断念してしまうケースもあるかもしれません。しかし、事業譲渡を行うことで売却益を得ることができ、従業員の雇用を守ることができます。
何より、長年にわたって続けてきた、サービスや商品を絶やさずに済むことが大きなメリットになるでしょう。
買い手側から見たメリット3選
次に、買い手側の立場から見たメリットについても紹介していきます。買い手側におけるメリットは、大きく分けて3つです。
- 新規事業に参入する際に、大幅なコスト削減に繋がる
- 節税効果に期待が持てる
- 負債や債務などのリスクを引き継がなくて良い点
ひとつずつ見ていきましょう。
新規事業に参入する際に、コストを大幅に削減できる
ゼロから新規事業に参入を計画した場合、非常に大きなコストがかかります。
費用はもちろん、時間や手間・人員も必要となることは避けられません。その事業が失敗に終わってしまえば、多大な負債を抱えてしまう可能性もあります。
しかし、既に実績や信頼のある事業を買うことができれば、スムーズに参入を果たすことができるのです。サラリーマンなどが副業のひとつとして、事業を買い取る事例も増えています。
節税効果に期待が持てる
買い手側の大きなメリットとして「節税効果」が挙げられます。事業譲渡を行った場合、のれん相当額を5年間、償却の損金として計上することが可能です。したがって、法人税の節税効果に繋がります。
負債や債務を引き継がなくても良い
メリット3つ目は、負債や債務を引き継がずに済むということです。
株式譲渡や合併を行う場合は、引き継ぎたくない負債や資産も「包括継承」によってすべて継承されてしまいます。
しかし、事業譲渡であれば、契約時に「必要な事業」のみを選択することが可能です。事前にリスクを回避することができますので、大きなメリットと言えるでしょう。
事業譲渡においてのデメリット
続いては、デメリットについても紹介していきます。多くのメリットがありましたが、注意しておかなければならない点も多いので、ぜひチェックしてください。
売り手側のデメリット4選
売り手側から見たデメリットは、大きく分けると4つになります。
- 社員や取引先への対応を個別に行わなくてはならない点
- 手続きが非常に複雑且つ時間を要する
- 負債が残ってしまう可能性が高い
- 競業避止義務に該当してしまう可能性もある
順番に確認していきましょう。
社員や取引先への対応を個別に行わなくてはならない
売り手側のデメリット1つ目は、社員や取引先への対応を個別に行わなければならない点です。事業譲渡を行うことが決定した場合、買い手側に引き渡す前に、個々の承諾が必須となります。
大きな企業であれば、その数は非常に多くなることが予想できるでしょう。また、個別対応の際に、納得できない従業員も出てきますので話し合いが難航する可能性も。
退職を申し出る従業員には、売り手側である企業が、退職金を支払う義務がありますのでまとまった費用が必要になります。取引先においても、経営者が変わるのであれば、取引は中止にするといったケースも考えられます。
新たな契約を結び直すことができなければ、事業譲渡は白紙に戻ってしまうこともあるのです。
手続きが非常に複雑且つ時間を要する
デメリット2つ目は、手続きが非常に複雑で時間が必要になる点です。特に大企業になるほど、多くのコストや手間・時間がかかってしまいます。
株式譲渡や会社分割の場合は、包括継承によって手続きが比較的スムーズに行われるのが特徴です。しかし、事業譲渡は個別に取引が必要になり、手続きが複雑なため大きな負担を感じてしまうでしょう。
負債が残ってしまう可能性が高い
3つ目のデメリットは、負債が残ってしまう可能性が高い点です。
買い手側としては、継承する事業を選択することができますので、わざわざ負債を継承する必要はありません。株式譲渡の場合は、負債も全て継承することができますが、事業譲渡では売り手側に負債が残るケースが多くなります。
競業避止義務によって制限がかかることも
会社法で定められている「競業避止義務」によって、売り手側が同じ市町村区域内で、同じ業種のビジネスを行うことが20年間にわたり禁止されています。
この義務については、買い手側の了承を得ることができた場合に限り、解除することが可能です。買い手側の承諾が得られないときには、経営を続けていくことが困難となりますので、事前にしっかりと確認する必要があるでしょう。
買い手側から見た2つのデメリット
買い手側のデメリットは2つです。
- 手続きに時間と手間がかかる点
- 従業員が離れてしまう恐れもある
それぞれ解説していきます。
手続きに時間と手間がかかる
売り手側と同じように、買い手側も譲渡が全て完了するまでに時間と手間がかかってしまいます。この原因は、個別で契約を結び直す必要性があるからです。
大企業であれば、その手続きには莫大な期間を要することとなるでしょう。
従業員が離れてしまう恐れもある
デメリット2つ目は、事業を買い取ったあとに、売り手側の従業員が離れてしまうリスクもあることです。事業を継承することには、その分野に精通した従業員のスキルなども含まれています。
しかし、合意の上で契約を結んだにも関わらず、統合した後にトラブルに発展してしまうケースも少なくありません。さまざまな理由から、従業員が離れてしまう可能性も考えられます。
その場合、期待していた「事業の価値」が下がってしまうのです。そうならないためにも、売り手側との意思疎通は非常に重要なものとなります。
事業譲渡契約書には何を書くの?
最後に、事業譲渡契約書に記載すべきポイントについて紹介します。
- 契約者
- 目的
- 譲渡の対象範囲
- 租税公課の精算
- 従業員の引き継ぎ
- 対価の支払い方法
- 商号続用の免責登記
- クロージング条件
- 競業避止義務
- 表明保証
- 印紙
以上が、誓約書に記載する際のポイントをまとめたものとなります。特に注意が必要な点は、従業員の引き継ぎをスムーズに行えるかどうかです。
従業員の同意を得られたといっても、実際は意思が固まっていない場合も考えられます。雇用の継続が確保できなくなった場合は、買い手側は大きなリスクを負うことになり、トラブルに発展する可能性も。
売り手側は、従業員の説得に力を入れるのはもちろん、買い手側は雇用条件の基準を確保する努力が必要です。
まとめ|事業譲渡には注意点も多い!メリットを上手に活用しよう
今回の記事では、事業譲渡とはどういったものなのか?従業員への影響やメリット・デメリットなどについて詳しく解説してきました。
複雑な手続きが多いため、事業譲渡を検討する際には、専門家への早めの相談がおすすめです。また、継承後にトラブルに発展してしまうケースもありますので、事前準備が大切だということもわかりました。
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最後までお読みいただきありがとうございました。以上、参考になると幸いです。