インサイダー取引とは?対象者や違反したときの罰則・事例を徹底解説!
最終更新日:2024-03-30株式投資をする人であれば「インサイダー取引」という言葉を、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?テレビのニュースでも度々取り上げられていますので、多くの方にとって聞き覚えがある言葉かもしれません。
しかし、インサイダー取引の詳しい内容や対象者、罰則などについては正確に説明できない方も多いはずです。
インサイダー取引について、深く理解しておかなければ「インサイダー取引に該当するなんて、思ってもいなかった」と後悔しても手遅れになってしまいます。
そこで今回の記事では、インサイダー取引とはどのような取引を表しているのか?禁止されている行為や未然に防ぐポイントについて詳しく解説していきます。
インサイダー取引について理解を深められる内容となっていますので、最後までお読みください。
目次
インサイダー取引とは?
インサイダー取引とは、会社の未公開である内部情報や重要な事実を知っている人物が、その情報が公開される前にその会社に関する株式を売買することです。
別名「内部者取引」とも呼ばれています。株価に大きな影響を与えると知りながら、株式の取引を行うことは、インサイダー取引規制によって禁止されているのです。
例を挙げると次のような事例です。
- 同社において新しい商品の開発に成功した事実を、会議の中で社員が知った。将来性のある画期的な商品だということもあり、話題性も十分だと考えた社員は、新商品開発の発表前に慌てて株式を購入した。
- 自身の職場が、今年中にM&Aによって合併するということを聞いた。まだ、世に出ていない情報なので、急いで自社株を購入する。
このように、一部の人間しか知ることのできない事実を知り、株価の上昇を見越して株式を購入するのがインサイダー取引となります。
ここで注意しておきたいポイントは一部の人間しか知り得ない情報を入手し、まだ未公開の段階で株式を購入してしまった場合、必ずしも儲けが出るとは限らないことです。
損をする可能性もゼロではありません。この場合、損をしたからと言って「インサイダー取引には該当しない」と考えてしまう方もいるかもしれませんが、損得に関わらずインサイダー取引規制に該当するという事実を覚えておきましょう。
インサイダー取引規制において「重要事実」と呼ばれる、会社内部の重要な情報を知る者が情報公開以前に会社の株式などを売買する行為は、金融商品取引法によって禁止されています。
この「重要事実」とは、株価に大きな影響をもたらすこととなる重要な事実のこと。「証券市場の公平性」を保つために、インサイダー取引は厳しく取り締まられています。
インサイダー取引に該当する人物とは?
インサイダー取引に該当する人物には、どのような人がいるのでしょうか?また、該当者が退職した場合にも適用されるのか難しいところです。ここからは、インサイダー取引の対象者について確認していきましょう。
- 会社関係者
- 第一次情報受領者
- 公開買付者などの関係者
ひとつずつ、解説していきます。
インサイダー取引に該当する人物①:会社関係者
インサイダー取引の対象者として、ひとつ目に挙げられるのは「会社関係者」です。会社関係者と一言で言っても、範囲が広く、自分が該当しているのかわからない方も多いのではないでしょうか。
会社関係者には、数多くの人が該当しています。
<会社関係者に該当する人物の一覧>
上場会社などの役員・代理人・使用人・従業員(グループ会社も含む) |
退職してから1年以内の元会社関係者 |
取引先や取引交渉中の相手 |
3%以上の株式を保有している大株主 |
法令に基づく権限を有する者(許認可の権限などを持っている公務員他) |
会社関係者の中には、パートタイマーやアルバイトの従業員も含まれているほか、公認会計士や弁護士・コンサルタントなども対象となっています。また、上場会社等の議決権の100分の3以上(3%以上)の株を保有している方も該当するので注意しましょう。
インサイダー取引に該当する人物②:第一次情報受領者
第一次情報受領者とは、対象である会社の関係から、重要事実を伝達された(見聞きした)人物を指しています。主に、家族や親族・友人や同僚などが挙げられるでしょう。
この場合、第一次情報受領者から情報を聞いた人物(第二次情報受領者に当たる)は、インサイダー取引規制の対象外とされています。
しかし、場合によっては「共犯」になる可能性もありますので十分に注意しなければなりません。
インサイダー取引に該当する人物③:公開買付者等関係者
公開買付者等関係者とは、今後予定されている公開買付けの関係者が対象者となります。これは株式公開買付け「TOB(take-over-bid)」とも呼ばれており、通常の取引とは大きく異なるものです。
公開買付け者が、期間・価格・予定の株数などをあらかじめ公表し、不特定多数の株主から株式市場外で株式を買い集めることを指しています。
公開買付等関係者に該当する人物は以下の通りです。
- 公開買付者等の役員や代理人、その他の従業員
- 公開買付者等の3%以上の株式を保有している大株主など
- 公開買付者等に対しての法令に基づく権限を有する者(許認可の権限などを持っている公務員他)
- 公開買付者等の取引先や取引交渉中の相手など
- その企業を退職してから6ヵ月以内の元会社関係者
インサイダー取引はどうしてバレる?
インサイダー取引が、どのようにしてバレるのか気になる方も多いのではないでしょうか?インサイダー取引がバレてしまう主な理由として、2つのことが挙げられます。
1つ目の理由が「内部告発」によるものです。一緒に働いている同僚から告発されることもありますし、知人などから告発されるケースもあります。なぜ、同僚や知人に知られてしまうのか?と疑問に感じる方もいるかもしれません。
これは、インサイダー取引を、会社ぐるみ(大規模)で行うケースが多いからです。規模が大きくなると、どれほど隠しているつもりでも、情報が漏れることが多くなります。この場合、不正を暴こうとした人物に対して会社からの圧力があったり、もみ消されてしまう可能性もゼロではありません。
その状況を防ぐために、証券取引等監視委員会は「情報提供窓口」を開設しています。会社内部に知られることや、圧力をかけられることなく、知っている情報を伝えることができるのです。
情報提供窓口は、電話だけでなくFAXやインターネット、郵送でも行うことができるようになっています。
インサイダー取引がバレてしまう理由2つ目は、日本取引所自主規制法人による監視で発覚するケースです。
重要事実が公表されることとなった銘柄において、公表前後の取引は、厳しいチェックと分析がなされます。
少しでも疑いのある取引が行われた際には、その全てを証券取引等監視委員会に報告する流れとなっているのです。これを「売買審査」といいます。
インサイダー取引規制に違反した場合の罰則とは?
インサイダー取引は犯罪です。しかし、インサイダー取引の恐ろしいところは「自分がインサイダー取引規制に違反している」とは気づかずに行ってしまうケースもあるということ。
法律によって、厳しい刑事罰が下ります。
インサイダー取引の事実が明るみになった場合、その刑罰は「5年以下の懲役、もしくは500万円以下の罰金」です。これは、インサイダー取引を行ったのが「個人」であるケース。
法人への刑罰は「5億円以下の罰金」となります。万が一、インサイダー取引を行ってしまうと、罰金だけでも非常に大きな金額です。
これだけでも厳しい状況に陥るのはもちろんの、会社からの解雇や周囲の人たちから非難の声を浴びせられるなど、厳しい社会的制裁を受けることとなるでしょう。
また、罰金刑だけでなく、逮捕されるケースもあることを把握しておく必要があります。
インサイダー取引を未然に防ぐ3つのポイント
もし、会社内でインサイダー取引を行ってしまった人物が出てしまった場合、その社員を解雇するだけで問題が解決するわけではありません。
会社の信用問題に関わるのはもちろんのこと、企業に対しての罰金刑が下ります。また、信頼関係を築いていた金融機関や取引先、顧客などを失うことにつながるのです。
インサイダー取引を未然に防ぐために、日頃からしっかりと対策を取ることが重要になります。未然に防ぐためのポイントは、大きく分けて以下の3つです。
- 社員研修の実施
- 機密情報の管理体制を強化
- 定期的に内部監査を実施する
それでは順番に確認していきましょう。
インサイダー取引を未然に防ぐ方法①:社員研修の実施
インサイダー取引を未然に防ぐためには、社員研修を実施するのが効果的です。インサイダー取引について、あまり理解できていない社員も多いはず。
インサイダー取引の危険性や代償を、すべての従業員に徹底して教育することで、リスクを軽減することができます。「重要事実」とはどのようなことを指しているのかなど、基本的なことも知ってもらう必要があるでしょう。
繰り返し研修・教育を行うことで、インサイダー取引の違法性を知ってもらうことが大切です。社員研修により、会社全体のコンプライアンス意識の向上にも繋がります。
インサイダー取引を未然に防ぐ方法②:機密情報の管理体制を強化
インサイダー取引を未然に防ぐためのポイント2つ目は、機密情報の管理体制を強化することです。
中小企業であれば、社員全員が出席するミーティングなどの際に、情報管理や機密情報のルールについて見直しや確認を行うのが効果的。
定期的に確認の場を設けることで、他人事ではなく、一人ひとりが当事者意識を持つようになります。インサイダー取引の違法性を知ってもらう機会を多くすることが、管理体制の強化となるでしょう。
また、大企業の場合は、従業員全員が集まることは難しくなります。大企業で機密情報の管理体制強化をする際には、専門部署を作り、情報管理を徹底させることが必要です。
専門部署から各部署へ、スムーズな連携を取ることによって、会社全体のコンプライアンス意識が高まることとなるでしょう。
インサイダー取引を未然に防ぐ方法③:定期的な内部監査を実施する
インサイダー取引を未然に防ぐ方法3つ目は「定期的な内部監査を実施する」ことです。
内部監査を行うと、改善点や問題点も浮き彫りとなり、会社全体の体制が整っていくことになります。監査を実施することで、役員たちの気持ちも引き締まり、違法行為でのリスクを再確認できるのです。
インサイダー取引の具体的な事例
インサイダー取引は、どんな有名企業でも、起こる可能性があるものです。インサイダー取引で大きな話題となってしまった、具体的な事例を紹介していきます。
- 村上ファンド事件(2006年)
- NHK職員によるインサイダー取引事件(2007年)
- ドン・キホーテホールディングス前社長のインサイダー取引事件
それでは、ひとつずつ見ていきましょう。
村上ファンド事件(2006年)
日本国内で起こったインサイダー取引の中でも、最も大きな話題となり、人々の記憶に残っているであろう事件が「村上ファンド事件」です。
この事件は、2006年に村上ファンドの村上世彰氏が、大量に保有していたニッポン放送の株を、上昇することを知った上で売却。なぜ、そのような事実を知ったのか?それは、堀江貴文氏の「ライブドア」が、ニッポン放送の株を大量に購入する事実を把握していたからです。
これによって、村上世彰氏は起訴されることとなり「懲役2年、執行猶予3年」と「300万円の罰金刑」が言い渡されました。そして、さらに「11億4900万円」という膨大な追徴金を科せられることになったのです。
NHK職員によるインサイダー取引事件(2008年)
インサイダー取引の具体的な事例2つ目は、NHK記者らによるインサイダー取引事件。
この事件は、2008年1月に、証券取引等監視委員会がNHKに調査に入ったことで発覚しました。このときのインサイダー取引対象者は3名。
3人はテレビで放送される前のとくダネ情報に不正にアクセスし、株価が上昇するであろう株式を購入していたのです。(実際に購入した株は「カッパ・クリエイト株」)
この事件が発端となり、当時のNHK会長と副会長、コンプライアンスの担当者と報道を担当していた理事に至るまで、引責辞任しました。
ドン・キホーテホールディングス前社長のインサイダー取引事件(2018年)
インサイダー取引の具体的な事例、最後に紹介するのは、ドン・キホーテホールディングス前社長のインサイダー取引事件です。(ドン・キホーテホールディングスは、現在「パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス」に社名変更)
この事件は、ドン・キホーテの前社長であった大原孝治被告が、公表前に自社の株を購入するようにと知人に勧めたことで逮捕されました。
前社長である大原被告自体は利益を得たわけではありません。しかし、重要事実を把握している立場で、自社株の購入を勧めたことはインサイダー取引とみなされるのです。
これによって、大原被告は「懲役2年、執行猶予4年」の判決を言い渡されました。その翌年である2019年、社長を務めていた大原被告は、グループ内の役職全てから退くこととなったのです。
まとめ|インサイダー取引は重罪!日頃から未然防止対策を整えよう
今回の記事では、インサイダー取引とはどのようなものなのか?インサイダー取引の対象者やインサイダー取引がバレてしまう理由、未然に防ぐポイントについて詳しく解説してきました。
インサイダー取引の対象者は非常に幅広く、会社の役員や社員はもちろん、アルバイトやパート・その家族や友人も該当します。期限付きとは言え、退職者も「会社関係者」となるので注意しなければなりません。
インサイダー取引は故意に行うだけでなく、インサイダー取引だと気づかぬうちに関わってしまうケースもあります。インサイダー取引は重罪ですので、罰金刑だけでなく、会社を解雇されたり周囲から非難されるなど大きな社会的制裁を受けることになります。
インサイダー取引を行うことのないよう、企業では日頃から未然に防ぐ体制を整えておく必要があるでしょう。
社員一人ひとりのコンプライアンス意識や危機管理能力を高めることで、大幅にリスクを減らすことができます。インサイダー取引は、個人だけでなく、会社全体の信用問題にかかわりますので社員教育に力を入れましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。以上、参考になると幸いです。