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M&A 事例・コラム

MOUの意味とは?作成する目的や締結するタイミングについて解説

最終更新日:2023-12-10
MOUとは


M&Aを行う際に、MOUという合意文書を作成する事がよくあります。この合意文書は双方が合意した内容を取りまとめたもので、最終合意に向けた基盤となる役割を持つ文書です。この記事では、MOUを作成する目的や内容、M&Aを行う際に作成するその他の書類について解説していきます。

MOUとは

MOUとはMemorandum of Understandingの略称で、日本語では基本合意書または了解覚書と言われています。M&Aを行う際に、買手と売手が合意した内容を記載した書類です。MOUで取り決めた買収価格や買収条件などの基本項目は、法的拘束力を持ちません。

しかし秘密保持義務(NDA)や独占交渉権に関しては、法的拘束力を持たせることが一般的です。また紛争になった際の準拠法や管轄裁判所について取り決める事も多くあり、双共ともに誠実な取引を行う事を確認のために交わす書面でもあります。

MOUの締結は、M&Aにおいて積極的な姿勢を示し、将来の交渉を円滑に進める意思表示としても重要なステップです。

M&AにおいてMOUを作成する目的

基本合意書(MOU)の締結は、主に買手側にとって大きなメリットがあると言えます。またM&Aにおいて基本合意書の締結には、次のような目的があります。

  • 重要論点の合意形成
  • スケジュールを明確にする
  • 買収価格の上限を定める
  • 独占交渉権の設定または公表による交渉力の強化
  • 機密情報の取扱いについて決められる
  • 当事者間での心理的拘束力を働かせる

等の上記のような目的があります。また基本合意書は最終契約書の補完となる事も多く、基本合意書も細かくチェックすることが大切です。

MOUと似た書類

M&Aを行う際に、よくMOUと呼ばれる基本合意書が交わされますが、他に似た書類も存在します。以下で解説していきます。

LOI

LOIとは、Letter of Intentの略称で、日本語では意向表明書です。M&Aで基本合意書(MOU)の締結前に、買手から売手へ買収の意思を示す書面です。意向表明書(LOI)を作成する理由はいくつかあります。

  1. 売手に対して買手の希望条件を示せる
  2. 秘密保持義務や独占交渉権についてすり合わせができる
  3. 無駄な費用を払わずに済む

LOIは、基本的に買手の希望が記されるため、買収金額や条件についても買手の希望で記載される事になります。このような条件についてを書類に記載し残す事で、希望の条件が明確になるため、認識の齟齬が起きなくなります。

また売手側に交渉の意思がないとわかった場合に、買手側は交渉に対して費用をかけなくても良くなるため、LOIの作成はどちらにもメリットがあるでしょう。

DA

DAとは、Definitive Agreementの略称で、日本語では最終契約書といいます。当事者間のM&Aに関する最終的な合意事項を定めた最も重要と言える契約書です。基本合意(MOU)を行った後に、デューデリジェンスを行ってその結果をふまえて双方が合意できた場合に締結します。M&Aのスキームや取引金額、表明保証、クロージングの条件などが記載されます。

また、契約の当事者の一方が最終契約書の内容に違反した場合、損害賠償請求ができる旨を盛り込んだ法的拘束力がある契約です。またM&Aの形によって交わす契約書が変わります。株式譲渡の場合は株式譲渡契約書(Stock Purchase Agreement)で、事業譲渡であれば事業譲渡契約書(Asset Purchase Agreement)です。

これらを最終契約書(DA)と呼びます。またその他に、

  • 吸収合併契約書
  • 会社分割契約書
  • 株式交換契約書
  • 株式交付契約書

などM&Aのスキームに応じた契約書を締結します。

MOUを締結するタイミング

基本合意書の締結のタイミングは、基本的に意向表明書(LOI)を受け取り、売手が買手の候補から買収の基本的な条件について提示されて交渉します。そのうえで前向きにM&Aのプロセスに進めると判断した場合に基本合意書を締結します。その時点で売手と買手が合意した事項を相互にチェックすることが目的です。

基本合意書の締結はM&Aを成功させるのに重要ですが、近年のオンラインM&Aにおいては、意向表明書(LOI)や基本合意書(MOU)の締結が省略される場合がある事を押さえておきましょう。

MOUで記載される項目

一般的に基本合意書に記載される項目は以下の項目です。

  • M&Aのスキーム(方法)
  • 買収対象
  • 買収価格
  • スケジュール
  • デューデリジェンスに関する事項
  • 表明保証条項
  • 独占交渉権と独占交渉期間、違約金
  • 紛争時の準拠法や処理法、言語などの事項
  • 法的拘束力について
  • 秘密保持に関する事項
  • 善管注意義務
  • クロージングの前提条件

このような内容等が記載されています。また基本合意書では法的効力を持ちませんが、最終契約書を締結する際の補完とされるため内容はしっかり確認しておくべきでしょう。内容に変更や追加が生じた場合は、お互いの合意のもとそのたびにMOUを作成します。上記のいくつかの項目について解説していきます。

買収対象

M&Aにはさまざまな手法があります。株式譲渡では、株式を売買したり、事業譲渡では事業資産を売買します。またすべての株式や事業資産を買収するとは限らず、株式や事業資産の一部のみ売買の場合も多いです。他にも色々なM&A手法があるため、基本合意書では買収対象の範囲を明確にして記載します。

その理由は、M&Aで買収する株式と事業資産の内容に食い違いが発生しないようにするためです。買収の方法はこの買収対象によって、ある程度定まることになるでしょう。

買収方法

どのようなスキーム(方法)で買収を行うのかの合意です。買収対象によって買収方法が変わります。買収方法の例をあげると「事業譲渡」「株式譲渡」「第三者割当増資」「合併」等の方法があります。

買収価格

買収価格またはその価格の範囲に関しての項目です。多くの場合は基本合意書で決めた金額は、デューデリジェンスの結果やその他の問題で価格が変更される事が多いです。そのため買収価格は、上限と下限を決める場合もよくあります。

また基本合意書で取り決めた買収価格には法的拘束力は持ちませんが、買収価格を変更する際に明確な理由が必要です。したがって、互いに正当な理由なく価格を変更することができなくなるため、双方にメリットがあります。

秘密保持義務

秘密保持義務は、多くの場合法的効力を持たせます。これにより買収側がその内容に違反した場合、売却側は損害賠償請求が可能です。M&Aでは相手企業の重要な情報に触れる事が多いです。そのような自社の事業の根幹ともいえる重要な情報を相手方のミスで外部に漏洩してしまっても、秘密保持契約をしていないと、多くの場合損害賠償請求できません。そのため、秘密保持契約を結ぶのは、情報漏洩への対策が目的と言えます。

またそのような重要情報や技術をM&A以外の用途で悪用されてしまうなど、自社が損害を受ける可能性を減らすという目的もあります。秘密保持契約では、秘密情報の利用範囲を定めて、開示する情報を保護しましょう。

表明保証条項

M&Aでの表明保証は、契約の当事者が株式譲渡契約書等の締結日または譲渡日(クロージング)に事業内容・法務・財務・労務等に関する一定の条項が、真実であることを表明してその内容について保証する合意です。

表明保証で対象になる条項に反する事実が判明した場合、損害賠償や買収対価の減額などになり、最悪の場合は契約解除になる可能性があります。また賠償額を基本合意書であらかじめ決めておくこともあるでしょう。

スケジュール

基本合意書におけるスケジュールは、最終契約書締結の予定日や基本合意の有効期間を決めます。そこから逆算して、その他の日程を考えることが多いです。一般的に最終契約締結は、基本合意書の締結から1〜3ヶ月後に行います。

また交渉の難航などにより最終契約書の締結が遅れる事が多く、そのたびにスケジュールを修正します。また基本合意書の有効期限も、同じく1〜3ヶ月の期間に設定されることが多いです。その他に、意思決定が遅い交渉相手の場合は、スケジュールの項目を盛り込むとM&Aが円滑に進む効果があります。

独占交渉権

独占交渉権は、基本合意が有効な期間中は、売手側がほかの買収候補者に情報開示を行ったり、交渉することを禁止します。通常は、独占交渉に関する条項は法的効力を持たせます。売却側に違反が判明して買収が不成立になった場合は、交渉に関する費用の請求が可能です。

独占交渉権で定められる期間は一般的に2〜3か月程度です。独占交渉権を獲得すると、デューデリジェンス中に売手が違う買収相手と交渉してしまい、コストが無駄になる可能性を排除できるので、買手にとってとても大切です。

善管注意義務

善管注意義務または善良な管理者の注意義務とは、この項目は売り手側に企業価値を落とさないように求める合意です。基本合意書の締結により善管注意義務が課された場合、最終契約書を締結するまで財務状況を大きく変えることはできません。

例をあげると重要な資産の売却や、資本金の増額・減額または多額の借入などのような行為はできなくなります。このような企業の価値にかかわるような変更は、買手の許可が必要です。この項目も法的拘束力を持たせるのが一般的で、違反があった場合は契約解除や損害賠償請求の対象となります。

クロージングの条件

M&Aを行う際に、売り手が決められた条件を満たせていない場合には、買い手はクロージングをしなくて良いという事項が記載されることが多いです。これをクロージングの条件またはクロージングの前提条件と呼びます。

この条件は買手が、条件が満たされていないのであれば、M&Aを行う意味を失ってしまったり、むしろトラブルを負ったりまたは損害を被る事になります。一般的にクロージングの条件は、最終契約書に記載することが多いですが、基本合意の時点である程度定まっている場合は、認識のすり合わせとして記載することがあります。

クロージング条件の例をあげると「成約事項が履行されている」「主要な取引先から取引を継続する同意が得られている」「重要な役員や従業員から同意が得られている」等の条件です。

MOUを作成する際の注意点

MOUを締結する際に注意することがあります。まずどの条項に法的拘束力を持たせるのか注意することが大切です。お互いの利害が相反するケースも多いので、どのような内容で記載するかがポイントになる事が多いです。

抽象的な表現を避け、具体的に抜けや漏れが無いか気を付けましょう。最終契約書を補完する大切な役割を担う事も多く、しっかり確認することが大切です。その他に変更や追加があるときは、その都度基本合意書を作成しましょう。

また専門的な知識が必要な内容が多いため、可能な限り専門家に相談してトラブルになるリスクを下げる事が大切です。

まとめ│MOUを正しく理解しよう!

この記事ではMOU(基本合意書)について解説してきました。交渉を行い、買手と売手の認識を確認して、どのような条件なら合意できるかを確認するために作成されます。基本合意書は基本的に法的拘束力を持ちませんが、独占交渉権や秘密保持など一部の項目には法的拘束力を持たせます。

基本合意書はM&Aを成功させるために必要な書類と言えますが、最近のオンラインM&Aでは、基本合意書を交わさずにクロージングまで進行するケースも多いです。基本合意書を締結するかしないか、双方の利益を踏まえて選択することが大切です。

監修者情報

板井 理
板井 理

2018年度公認会計士試験に合格後、EY新日本有限責任監査法人札幌事務所に入社、その後3年間法定の会計監査業務に従事。
2022年に退職し、2023年に共同代表である笹本 拓実と株式会社PASONを設立。代表取締役に就任し、小規模M&Aに特化したマッチングプラットフォームサービス「PASON」を運営している。