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TOB(株式公開買付け)とは?ルールやメリット・デメリットなどを解説!

最終更新日:2024-03-30
株式公開買付 TOB

TOB(株式公開買付け)は、他の企業の経営権を取得するための買収方法の1つです。買収者と対象企業は様々なリスクを負いますが、一方で株主には、高値で株を売却できるチャンスとも言えるでしょう。本記事ではTOBの意味やメリット、注意点などを解説していきます。

TOB(株式公開買付け)とは?

TOBは、Take Over Bidの略称で日本語では、株式公開買付けです。TOBは対象企業の経営権・株主総会における特別決議の否決権の取得を目的として行われます。TOBでの株の買付価格は基本的に、市場での取引株価より価格を高く設定されることが多いです。

日本では1971年に証券取引法上の制度として制定されました。 公開買付けを行う企業や個人は、対象企業の株式を保有している不特定多数の株主に対して、買付価格、買付予定株数、買付期間などの条件を公告して、株式の買付けを呼びかけます。

市場での取引株価よりも買付価格が高く設定される事が多いため、株主が株式の売却を判断する可能性が上がるため、公開買付けを行う企業や個人が、一定の株式数を集められる可能性が高くなるでしょう。公開買付けによって設定された買い取り価格と、市場株価の差をプレミアムと呼びます。

義務的公開買付けについて

TOBとは、企業を買収(M&A)する方法の1つですが、義務的公開買付けとは、一定以上の株式の取得を行う場合に、TOBをしなければいけないルールのことです。

5%ルールや1/3ルールというものが存在します。なぜ義務的公開買付け制度が必要なのかというと、大量の株式の買付けが秘密裏に行われると、特定の株主が優遇されて少数株主が不利益を被る可能性があるためです。

実際の企業価値とは無関係な要因により、株価が極端に変動することは異常と言え、望ましくありません。企業の経営や株価に重大な影響を及ぼす可能性のある株式買収は、すべての株主に対して平等に公開すべきと一般的に考えられています。

TOBのルール

金融商品取引法では、大規模な株式の取引によって特定の株主が優遇されたり、不透明な取引が発生したりすることを防ぐために、いくつかのルールを設けTOB実施を義務付けています。 どのようなルールがあるのか解説していきます。

5%ルール

5%ルールとは、証券取引所外での株式取得により株式の保有割合が5%を超える場合、TOBの実施が義務付けられているルールです。5%以上株式を保有すると経営や株価に影響を及ぼすため、5%ルールが定められています。

また、保有割合が5%を超える場合でもTOBの実施を免除される場合もあります。 免除される場合は、60日間で10名以下からの買付けの場合で、その場合はTOBの実施を免除されます。

1/3ルール

1/3ルールとは、株式買付けした後に保有率が1/3を超える場合に適用されるルールです。それぞれ内容が条件によって変わるので、これから3つの場合を紹介していきます。

  1. 取引市場外での売買の場合

取引市場外で60日間に10名以内から買付け、その後の株式保有率が1/3を超える場合にはTOBの実施をしなければならないというルールです。

5%ルールでは、10名以内から行う買付けは免除されますが、株式の保有率が1/3を上回る場合は株主総会における特別決議の否決権が与えられ、会社の経営に対して強い影響力を持ちます。そのため株式保有率が1/3を超えてしまうような場合、買付け人数によらずTOBを実施しなくてはいけません。

  1. 迅速な買付けの場合

3ヶ月の間に対象会社の発行済株式の10%を超える買付けを実施し、そのうち5%超を取引市場外または特定売買で買付けた場合、かつ買主の株式保有率が1/3を超える場合もTOBを行わければならないルールです。

このルールは、段階的に株式を取得し1/3ルールを回避する事を防ぐために定められたルールです。取引市場外で30%程度の株式を取得したのちに、数%更に株式を買い増しすれば、TOBを行わずに1/3以上の株式を所有できてしまいます。

このような、短期間での買付けで、経営権を不意打ちで取得するのを防ぐために制定されました。

  1. 取引市場内の特定売買の場合

証券取引所の市場内で特定売買によって株式保有率が1/3を超える場合も、ルールの対象です。特定売買とはToSTNeT取引、J-NET取引等を通して行われる証券取引所の通常の取引時間(立会取引)以外に行われる取引のことを指し、その特定売買で株式保有率が1/3を超える場合も、TOBを実施しなければいけないルールです。

1/3ルールの例外

また1/3ルールにも免除される場合がありますので、いくつか紹介します。

  •  「兄弟会社」等から買付ける場合
  •  新株予約権の行使する場合
  •  企業グループで 3分の1超の議決権を所有する会社の株券等のグループ内での移動の場合

 このような場合は、TOBの実施を免除されます。

友好的TOBと敵対的TOBとは

TOBには2種類あり、友好的TOBと敵対的TOBです。それぞれの違いついて解説していきます。

友好的TOB

友好的TOBとは、買収者が対象企業の経営陣と積極的な協力関係を築いて合意を得ながら行うTOBです。例をあげると、親会社・子会社の関係を築くために、これまで良い関係にあった企業同士が子会社化を目指して、実施されます。

対象企業と買収企業の双方に利益をもたらす場合が多く、スムーズな取引を促進する方法として選択されることがあります。日本においては、友好的TOBが多い傾向です。

敵対的TOB

敵対的TOBとは、買収者が対象企業の経営陣と合意を得ずに行われる、買収を仕掛けるTOBを指します。 買収者は、対象企業の経営権を支配が可能な決議権を取得するため、総株主の決議権の過半数の取得を目指すことが多いです。

敵対的TOBの対象にされた企業はいくつかの対抗策を行い抵抗する事が多いです。これから敵対的TOBを予防する手段と対抗する手段をいくつか紹介していきます。

敵対的TOBの予防策

  1. ポイズンピル(毒薬)
    ポイズンピルとは、米国上場企業で多く導入されている対抗策で、敵対的TOBの対抗策として一番メジャーな手法です。既存株主にあらかじめ市場価格を大幅に下回る価格で株式を購入する権利を与えておき、敵対的買収者が一定以上の株式を取得した場合に、新株(毒薬)を発行し買収者の持ち株比率を下げるなど、支配権を獲得するためにかかる必要な買収コストを増加させ、買収を困難にしてしまう事を目的とした買収の予防策です。ライツプランとも呼ばれています。
  1. スタッガード・ボード(期差任期制度)
    スタッガード・ボードとは、取締役の改選時期をずらしておいて、一回の改選ですべての取締役を変更できないようにしておく事を言います。敵対的買収により、現職の取締役が全員解任されるまで時間を稼ぐための買収予防策の1つです。
  2. ゴールデンパラシュート(金の落下傘)
    ゴールデンパラシュートとは買収によって対象会社の経営陣が解任や、権限を減らされた場合に非常に多額の退職金を払うという趣旨の契約を事前に結んで置き、多額の現金流出を招いて買収コストを増加させ、買収者との交渉の材料として活用する買収予防策の1つです。

    米国では、取締役にとっての保険の側面が強く、敵対的買収に対する予防ではなく、むしろ敵対的買収を促す効果があると言われています。

敵対的TOBの対抗策

  1. スコーチド・アース(焦土作戦)
    スコーチド・アースは、敵対的買収に対抗するための対抗策の1つで、買収対象になった企業が自分の価値のある資産や収益性が高い事業を第三者に売却・譲渡したり、分社化したりして企業の価値を大きくさげて、買収者の買収意欲を削ぐために行う防御策を言います。
  2. ホワイトナイト(白馬の騎士)
    ホワイトナイトは、敵対的買収を仕掛けられた企業が、友好的な買収者(ホワイトナイト)を新たに探して買収や合併をしてもらう事です。買収者よりもさらに高い価格でTOBを行ってもらう(カウンターTOB)や、友好的な買収者に新株予約権を付与や第三者割当増資が行われます。

ただし、買収者が友好的であっても自社を売却する事になるので、相応の覚悟が必要でしょう。また身売りの意思表示をすることによって、更なる買収者を呼び込む可能性がある事にも注意が必要です。

  1. パックマン・ディフェンス
    パックマン・ディフェンスとは、敵意的買収が発生した際に、敵対的買収を仕掛けられた企業が買収を仕掛けてきた企業にTOBを行う防衛策です。敵対的買収を仕掛けた企業の株を25%取得すれば防衛が成立し、その時点で相手は自社に関する決議権を失い、行使できなくなります。

    そのための資金を工面するために、対象会社が借入や重要な資産の売却などを実行して、買収時の魅力を減らすことになる事もあります。しかしパックマンディフェンスには多額の資金が必要となるため、第三者から買収される可能性など、更なるリスクにさらされる事があるためこちらも注意が必要です。

TOBのメリット

TOBを実施するメリットを買収企業と対象企業に分けて解説していきます。

TOBのメリット│買収企業

TOBを買収企業が実施するメリットの1つは、買収成立までの計画が立てやすい事です。TOBを実施する場合、事前に決めた期間と金額、株式数で株式をまとめて大量に買い取るため、どれだけ資金が必要かなどの計画がしやすいと言えます。

2つ目のメリットは、効率よく株式を取得できる点です。募集する株式数に、上限(最大発行数)と下限(最大発行数)の設定ができ、必要数に足りない、または上限を超える場合には買付けを行わない事も可能です。

取引市場では、目標株式数に満たなかった場合でも買付けをキャンセルすることができないので、そこがTOBのメリットと言えるでしょう。また全部買付け義務というものがあり、これは株式を2/3以上取得する場合には、全株式を取得しなければならないというルールがあります。

TOBのメリット│対象企業

TOB対象企業のメリットは、経営改善の可能性がある事です。TOBによって自社より強固な経営基盤や資金力がある企業に買収してもらう事により、さらなる事業展開や、設備投資ができ経営効率が改善される可能性があります。

また経営改善への期待感から株価が上昇しやすく、株価が上昇すれば株主の利益も増加し、社会的信用の獲得にも繋がるでしょう。

TOBのデメリット

続いて、TOBを実施するデメリットを買収企業と対象企業に分けて解説していきます。

TOBのデメリット│買収企業

TOBを買収企業が実施するデメリットは、TOBが失敗する可能性があるという点です。敵対的TOBの場合は、解説してきた様々な防衛策を講じられ(ホワイトナイトなど)スムーズに買収できないパターンが多いです。

また、友好的TOBの場合でも競合企業の介入によって失敗する可能性もあります。また市場で取引するより高値で買う事になるため、その分コストがかかる事もデメリットと言えるでしょう。

TOBのデメリット│対象企業

TOB対象企業のデメリットは、買収企業に経営権を奪われる事です。TOBが実施された場合、株主構成に影響があるため、買収企業からの対象企業への要求や意見が増える可能性があります。

TOBにより、対象企業が思い描いていたような事業展開とは、かけ離れてしまう可能性がある事は非常に大きなデメリットと言えるでしょう。

まとめ│TOBのルールやメリット・デメリットを把握しよう!

これまでTOBのルールやメリット・デメリットを解説してきました。TOBはM&Aの手法の一つとして、双方の企業にメリットをもたらす事も多いですが、デメリットや失敗するリスクなどもあります。TOBによるメリットやデメリットをしっかり理解しましょう。

監修者情報

板井 理
板井 理

2018年度公認会計士試験に合格後、EY新日本有限責任監査法人札幌事務所に入社、その後3年間法定の会計監査業務に従事。
2022年に退職し、2023年に共同代表である笹本 拓実と株式会社PASONを設立。代表取締役に就任し、小規模M&Aに特化したマッチングプラットフォームサービス「PASON」を運営している。