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分離課税とは?総合課税との違いや所得ごとの税率・確定申告について解説!

最終更新日:2024-06-16
分離課税とは

所得税の課税方法には、大きく分けて「総合課税」と「分離課税」の2つがあります。

総合課税は、主に給与所得や事業所得などの対象である所得を合算した金額に対して、累進課税によって課税する方式です。

続いて分離課税は、その対象になる所得について他の所得と合算しないで、所得ごとに決められている税率によって課税する方式です。

この記事では、分離課税と総合課税の違いや所得毎の税率などについて解説していきます。 

分離課税とは

分離課税とは、所得税の課税方法の一つです。所得税の課税方法は2つあり、それが総合課税と分離課税です。

分離課税は、特定の収益や所得を一般的な所得と合算せずに課税する税制のことをさします。分離課税の対象となる所得は、退職所得や山林所得などが該当します。

これらの所得が分離課税とされている理由は「特定の所得の税率を変更すること」にあります。税率を変更することにより、その所得に関連する市場取引を、コントロールするのが目的です。

例をあげると、株式等の譲渡所得を下げることで、株式市場の活性化を促すなどです。退職所得などの場合は、一気に大きな金額が入るため給与所得などと合算して課税されると、納税額が大きくなってしまいます。

このような状況は適切ではないという配慮のもと、税負担が軽くなる措置としても機能しています。

分離課税と総合課税との違い

先ほども解説したとおり、所得税の課税方法は「総合課税」と「分離課税」の2つに分けられます。

所得税とは、1年間で生じた所得に課される税金で、所得は10種類あり、その所得の種類によって総合課税もしくは分離課税なのかが定められています。

その中でも配当所得は、総合課税と申告分離課税が選択可能です。課税所得金額695万円未満の場合は、総合課税を選択することで、ほかの課税方式より税率が低くなります。

課税所得金額が695万円の場合、総合課税を選択した時の税率は「17.2%」です。分離課税を選択した時の税率は「20%」です。したがってこの場合では、総合課税を選択する方がお得となっています。

所得による課税方法

それぞれ所得の課税方法は以下のとおりです。

  • 事業所得(総合課税)
  • 不動産所得(総合課税)
  • 利子所得(総合課税もしくは源泉分離課税)
  • 配当所得(総合課税もしくは申告分離課税)
  • 給与所得(総合課税)
  • 譲渡所得(分離課税もしくは総合課税)
  • 一時所得(総合課税)
  • 山林所得(分離課税)
  • 退職所得(分離課税)
  • 雑所得(分離課税もしくは総合課税)

上記のように分類されています。給与所得は、会社員が勤務先から受け取る給料や賞与を指します。

また事業所得は、農業・林業・製造業・卸売業・小売業・サービス業をはじめとしたその他の事業から生じる所得のことです。

これは、フリーランスやYouTubeの広告収入など。個人事業主の所得のほとんどが事業所得に該当します。

分離課税の種類

分離課税はさらに2種類に分ける事ができます。それが「申告分離課税」と「源泉分離課税」の2つです。それぞれ解説します。

申告分離課税

申告分離課税とは、他の所得とは分離して税額の計算を行い、自らの確定申告によって納税する課税方式です。

代表的なものは、山林所得や株式等の譲渡所得などです。また、上場株式の配当金の場合は、その他に総合課税か申告不要制度の選択ができます。

このような上場株式等の申告手続きを簡素化するために「特別口座」というものが設けられました。

特別口座を活用することで、確定申告の手続きや損益計算などの負担を軽減できます。

源泉分離課税

源泉分離課税制度とは、所得を支払う者が支払時に一定の税率で所得税を源泉徴収し、それで納税が完結する仕組みです。

これにより、受け取った所得に対して確定申告をする必要がありません。代表的な所得には「一部を除く利子所得」や「源泉徴収あり」の特定口座の配当所得や譲渡所得などがあります。

具体的な例としては、預貯金の利子や償還差益などです。

これらの所得は、受け取る時点でそれぞれの税率で税金が引かれています。例えば、金融機関が預貯金口座の利用者に対して利子を支払う際には、所得税と住民税が差し引かれ残額が利用者に支払われます。

この徴収した税金は金融機関が納税者に代わって納税するため、利用者は確定申告を行う必要がありません。

ただし、特定の事由(例:株式取引によって発生した損失の繰越を行いたい場合)により、確定申告が必要となる場合もあります。

基本的には分離課税の対象となる所得があった場合は確定申告が必要ですが、源泉分離課税では収入の支払い時に税金が差し引かれるため、確定申告を行わない点が特徴です。

分離課税の所得ごとの税率

分離課税に分類される所得は以下のとおりです。

  • 配当所得
  • 譲渡所得
  • 山林所得
  • 退職所得
  • 利子所得

分離課税はそれぞれ所得毎に税率が定められています。それぞれ具体的に解説していきます。

配当所得

配当所得は申告分離課税もしくは総合課税です。配当所得は株式の配当金や、公募株式投資信託の収益分配金などにかかわる所得をいいます。配当所得に該当する主な所得は以下のとおりです。

  • 法人から受ける剰余金の配当
  • 法人から受ける利益の配当 
  • 剰余金の分配(出資に係るものに限る)
  • 投資法人から受ける金銭の分配
  • 基金利息(相互保険会社の基金に対する利息など)
  • 公社債投資信託および公募公社債等運用投資信託以外の投資信託の収益分配
  • 特定受益証券発行信託の収益の分配

配当所得の金額は、以下の計算によって求められます。

収入-株式などを取得するための負債利子

銀行などからの借り入れを行い取得した株式の場合は、借入金にかかる負債利子を収入から差し引いて計算することができます。税率は以下の2とおりです。

上場株式の配当を受け取る場合 

所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%の合計20.315%

非上場企業などの配当を受け取る場合

所得税20%・復興特別所得税0.42%の合計20.42%

また総合課税を選んだ場合は、配当控除の適用を受ける事ができます。一方で申告分離課税の場合は、上場株式の譲渡損失との損益通算ができます。

譲渡所得

譲渡所得は分離課税もしくは総合課税です。譲渡所得とは、自己が所有している資産を売却することで得た所得をさします。

譲渡所得の対象となるのは土地や建物、株式などがあります。しかし売掛金などの債権や棚卸資産などは譲渡所得の対象になりません。

これらの譲渡所得のなかで分離課税の対象となるのは、土地建物などの譲渡と株式の譲渡です。

譲渡所得の金額の計算式は以下の計算によって求められます。

収入 -(取得費 + 譲渡費用)-特別控除額

土地等建物の譲渡の場合は、所有期間に応じて税額が異なります。具体的には譲渡日を含む年の1月1日時点で、所有期間が5年超であるか5年以下であるかによって税額が異なります。不動産を売却した時の税率は以下のとおりです。

長期譲渡所得の場合

 所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%の合計20.315%

短期譲渡所得の場合

所得税30%・復興特別所得税0.63%・住民税9%の合計39.53%

マイホームの軽減税率の特例を受ける場合の税率は以下のとおりです。

譲渡所得が6,000万円以下の部分

所得税10%・復興特別所得税0.21%・住民税4%の合計14.21%

譲渡所得が6,000万円超の部分

所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%の合計20.315%

譲渡所得が6,000万円以下であれば税率は6.105%下がるため、税負担が軽減されます。

山林所得

山林所得は分離課税です。これは「所有している山林の木を伐採して譲渡する」もしくは、「伐採せずに木をそのままの状態で譲渡する」ことで得た所得を言います。

また山林を所有してから5年以内に譲渡した場合については、事業所得もしくは雑所得となっています。

山林所得の金額の計算方法は以下のとおりです。

総収入 – 必要経費 – 特別控除額 

山林所得の税額は以下の計算で求められます(5分5乗方式)。

(課税山林所得金額 × 5分の1 × 税率) × 5

上記の計算で税額を求める事ができます。ここでの税率は、所得税の税率を用います。復興特別所得税は、その年の基準所得税額の2.1%です。また住民税は、山林所得金額の10%です。

退職所得

退職所得は分離課税です。退職金制度のある勤務先にて働いた報酬の一部として勤務先から退職時に支払われるものです。

退職金はとても大きな金額でありその後の老後の生活にもかかわるもののため、税金の負担が軽減されるような措置があります。退職所得の金額は以下の計算によって求められます。

特定役員退職手当等以外の場合

(収入-退職所得控除額) × 1/2

特定役員退職手当等の場合(役員勤続年数が5年以下の場合)

(収入-退職所得控除額)

退職所得控除額は勤続年数によって変わります。勤続年数による 退職所得控除額は以下のとおりです。

勤続年数20年以下の場合

40万円 × 勤続年数(80万円以下の場合は、80万円)

勤続年数20年超の場合

800万円 × 70万円 × (勤続年数-20年)

退職所得の税率と控除額は、所得税の速算表によって求められます。

所得に応じて税率が5%〜45%の範囲で所得税が決まります。復興特別所得税は、その年の基準所得税額の2.1%です。住民税は、課税退職所得額の10%です。

利子所得

利子所得は源泉分離課税です。利子所得とは、銀行の預貯金や公社債の利子収入、銀行の預貯金や公社債の利子収入などのことです。

これらの場合は、収入を受け取る時点で、所得税が源泉徴収されています。また源泉徴収前の金額が利子所得です。

預貯金の利子は源泉分離課税で所得税15%・復興特別所得税0.315%・地方税5%の税率となっています。また所得税のかからない所得は以下のとおりです。

  • 納税貯蓄組合預金の利子
  • 納税準備預金の利子
  • 350万円までの障害者等の少額預金の利子
  • 350万円までの障害者等の少額公債の利子
  • 550万円までの勤労者財形貯蓄の利子

利子所得は収入のみで計算され、経費などは認められていません。

申告分離課税によって課税された場合の確定申告

確定申告を行う場合は、基本的に確定申告書B第一表、第二表が必要です。

申告分離課税による所得の申告がある場合は、これに加えて申告第三表(分離課税用)が必要となります。これに該当する分については、課税所得を計算して該当欄に記入します。

また確定申告は、翌年の2月16日から3月15日までの間に行い、所得税の納付が必要です。

復興特別所得税とは

復興特別所得税とは、東日本大震災の復興財源を確保する事を目的として始まった、時限的な課税措置です。

2011年12月2日に公布された「復興財源確保法」によって「所得税」「住民税」「法人税」に加算されることが決定されました。

これは2013年から2037年の末までの25年間、税額に2.1%を乗じた金額が追加課税されます。

まとめ│分離課税は公平な課税や経済活動の促進のため

ここまで分離課税について解説してきました。分離課税は、対象となる所得をそれぞれ分離して課税する方式です。

一方総合課税は、対象となる所得を合算して累進課税で課税する方式です。所得の種類は10種類あり、所得毎に総合課税もしくは分離課税なのかが決まっています。

また分離課税にも種類があり、それは申告分離課税と源泉分離課税の2つです。申告分離課税は、配当所得などが対象で、自らが確定申告を行い所得税を納付する方式です。

源泉分離課税は、利子所得などが対象で、その収入が発生する際に事前に税金が差し引かれてその収入を支払う側が納税する方式です。

そのため収入を受け取る個人は、確定申告を行う必要がありません。分離課税の税制がある理由は、公平な課税を実現することと、経済活動を促進もしくは抑制することによって適切な状態にするためにあります。

分離課税を設けることによって、所得の種類毎に安定した税収を確保しつつ税務行政を効率化することができます。安定した税収により、社会保障制度の強化や経済成長の促進などが期待できます。

監修者情報

板井 理
板井 理

2018年度公認会計士試験に合格後、EY新日本有限責任監査法人札幌事務所に入社、その後3年間法定の会計監査業務に従事。
2022年に退職し、2023年に共同代表である笹本 拓実と株式会社PASONを設立。代表取締役に就任し、小規模M&Aに特化したマッチングプラットフォームサービス「PASON」を運営している。