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クリニックや医院における事業承継とは?承継方法や良くあるトラブルについて解説!

最終更新日:2024-06-22
クリニック 事業承継

クリニックや医院などは地域に密着している場合が多数です。事業承継が上手くいかずに廃業してしまうと、その地域の医療にとても大きな影響を与える可能性があります。

しかし、クリニックや医院は様々な届けをする必要があり、一般的に行われる事業承継に比べ手続きも複雑です。

この記事では、クリニックや医院を承継する際の注意点や、承継の流れを解説していきます。

クリニックにおける事業承継とは

クリニックや医院は、地域の医療を支える大切な役割を担っている事業です。

そのため、いかにして次世代へと医院を事業承継するかという問題は、数多くの経営者を悩ませています。

クリニックや医院は公共性が高い特殊な事業とも言えるため、廃業した場合その地域や患者にとっては大きな損失です。

そのためクリニックや医院が廃業してしまわないように事業承継を行う事は、そこを利用している患者を守ることにも繋がります。

地域によっては病院の数がそもそも少なく、廃業してしまうとさらに遠い隣町の病院に通わなければいけなくなってしまう場合もあります。

このような事態を避けるためにも、後継者が見つからず経営者が引退するような状態になってしまった場合でも、クリニックや医院の事業承継は成功させる必要があるでしょう。

クリニックの事業承継における問題点

近年のクリニックの事業承継における問題は以下の2つです。

  • 少子高齢化社会と後継者不足問題
  • コロナによる減収

それぞれ詳しく解説します。

少子高齢化社会と後継者不足問題

近年日本では、少子高齢化が進んでいます。それに伴い経営者の高齢化も進み、平均年齢は「63.76歳」です。

帝国データバンクの調査によると、医療業界における後継者不在「68%」とおよそ3分の2以上のクリニックや医院で後継者がいない状態となっています。

そのため、このままの状態が続けば、地域医療は後継者不足により崩壊する可能性があります。

そのため。事業継承などによってその地域でのクリニックや医院を継続させる事が重要と言えるでしょう。

しかし、この後継者不在のデータには、経営者がまだ若く後継者を探す事もしていないものや後継者自体の意思決定がなされていないなどのデータも含まれています。

それでも、医療業界における後継者不在率は他の業界と比較しても高いため、楽観視できないのが現状です。

コロナによる減収

近年発生したコロナ禍により、クリニックや医院の収益が減少していることも、医院承継の減少の一因となっています。

これは、コロナによって先行きが見えず、収益が減少している中で事業承継を行うことが後継者にとってリスクが高いためだと考えられます。

コロナ禍が終わった現在では、徐々に収入が戻りつつあるようですが、依然として収益が減少した影響が出ているようです。

クリニックや医院の事業承継の注意点

クリニックや医院承継において注意点は以下の二つです。

  • 後継者が限定される
  • 譲渡手段が限定される

それぞれ解説していきます。

後継者が限定される

医療法第十条では「病院(第三項の厚生労働省令で定める病院を除く。次項において同じ。)又は診療所の開設者は、その病院又は診療所が医業をなすものである場合は臨床研修等修了医師に、歯科医業をなすものである場合は臨床研修等修了歯科医師に、これを管理させなければならない。」とされています。

クリニックや医院では、開設者が管理者を務めることが一般的であるため、事業承継を行う後継者も医師免許が必要となるケースが大多数です。

その他に、円滑に医院経営を行うために、経営ノウハウのみならず、経営に係る様々な法律などについての知識が必要です。

そのため、クリニックや医院の承継では後継者が限られてしまい、適切な人材を見つけることが比較的難しくなっています。

譲渡手段が限定される

クリニックや医療承継をする場合は以下の2通りの方法があります。

  • M&A
  • 親族内承継

M&Aの場合ではクリニックや医院には株式がないため、株式譲渡などのM&A手法が活用できず、一般的なM&Aと異なり譲渡手段が限られる点に注意が必要です。

医療法人の種類

医療法人には3種類あり、社団医療法人・財団医療法人・特定医療法人に分かれます。このうちの社団医療法人が全体の大部分を占めています。

そしてこの社団医療法人は、「出資持分あり医療法人」と「出資持分なし医療法人」の2つに分類されるのです。

また医療法人の出資持分について知りたい方は、医療法人における出資持分ありなしとは?メリット・デメリットと解散手続きについて解説!にて詳しく解説しています。

出資持分あり医療法人

出資持分ありの医療法人とは、定款の定めによって出資者が出資持分(財産権)を持つ法人のことです。

これは退社時や解散時に出資した金額に応じて、払戻しまたは分配を受ける権利をもちます。またその出資持分については、譲渡や相続の対象となります。

例をあげると出資金2000万円で設立し純資産額が1億円となっている場合は、法人を解散すると定款の定めによりその1億円は出資者に分配されることとなり、これは相続の対象です。

しかし、出資持分ありの医療法人は、2007年4月の第5次医療法改正以後に新規設立することができなくなっています。

現存している出資持分あり医療法人は、経過措置医療法人として存在しています。

出資持分あり医療法人は、配当などができないため、その財産が大きくなるケースが少なくありません。

そのため、出資者が死亡するなどして相続が発生すると後継者が相続税を納付できないなどの問題が生じてしまい、事業承継がスムーズに進まないリスクがあります。

地域の医療を担っているクリニックや医院が、相続などの問題によって医療サービスを継続できなくなってしまうのはその医院のみならず地域にとっても問題です。

そうした背景もあり、現在では出資持分なし医療法人の設立のみが許可されています。

出資持分なし医療法人

出資持分なしの医療法人とは、定款に定めがなく出資者が出資持分(財産権)を持たない法人のことです。

例をあげると出資金2,000万円で設立し純資産額が1億円となっている場合は、法人を解散すると定款の定めによりその2,000万円は出資者が返還してもらうことができますが、残りのお金は国庫に帰属します。

しかし、退職金などを用いることによってある程度引き出すこともできますが、金額があまりにも大きい場合は引き出し切れない可能性があります。

また、相続が生じたとしても拠出金のみが対象となるため、持分ありに比べて相続がしやすいのが出資持分なしの医療法人の特徴です。

出資持分の移転

医療法人を承継する方法として、出資持分の移転を行う方法があります。出資持分の移転は、持分の所有者が持分の一部または全部を第三者へ譲渡することです。

株式会社であれば、経営者が持っている株式を後継者へと譲渡すれば、経営権も後継者に承継されることになります。

しかし、医療法人の出資持分は医療法人の残余財産分配請求権や払い戻し請求権の財産的な権利となっているため、経営権とは分離されています。

そのため出資持分を移転したからといって、事業承継が完了することはありません。

医療法人の場合は、出資額によらず社員1人1つずつの議決権を保有していて、経営権は社員にゆだねられています。そのため、経営権を後継者に引き継ぐ場合は、社員から賛同を得る必要があります。

出資持分の移転のメリット

出資持分を移転する方法のメリットは、手続きが容易という点です。

出資持分を移転するには、移転を行う当事者間にて持分譲渡契約書を作成し締結後、社員を入れ替えることによって完了します。

これは出資持分を移転したとしても医療法人の法人格は変わらず、雇用や取引先などに対して影響がなく、契約を行っている相手から同意を得る必要がありません。

また、親族内継承の場合は、相続または生前贈与ができる点もメリットです。

出資持分の移転のデメリット

出資持分の移転のデメリットは、親族内承継等を行い出資持分の移転を相続もしくは贈与で行うと後継者に贈与税や相続税が課せられる点です。

出資持分を移転する際の評価額は、設立時の出資金額と経過年度の利益剰余金となっているため、基本的に経過年度数が多ければ多いほど評価額は高くなります。

そのため、後継者に対して課せられる税負担がとても大きくなってしまう点がデメリットです。

また著しい廉価での譲渡を行った場合は、譲渡金額と時価の差額分については、贈与税の課税対象となってしまう点にも注意する必要があります。

出資持分の払戻し

出資持分の払戻しとは、事業譲渡する側が医療法人を退社して自身の出資持分を払戻して、後継者が新しく出資をし入社する方法です。

親族内承継の場合では、理事長などが出資持分の払戻しを行って後継者に引き継ぐことができます。

またこの方法では、払戻しをした出資持分を後継者に対して、贈与もしくは相続といった方法で引き継ぐことが可能です。

その他経営権についても出資持分と同様に、社員からの賛同を得る必要があります。

出資持分の払戻しのメリット

出資持分払戻しのメリットは、出資持分を移転する場合と同じく手続きが簡単で、法人格に変更がない点です。

またそのほかのメリットとしては、承継の際に出資持分を払戻すために、後継者以外に相続人が存在するケースでもトラブルになりにくい点がメリットです。

出資持分の払戻しのデメリット

出資持分払戻しのデメリットは、譲渡する側である前理事長に利益が生じた際に、その利益は総合課税である配当所得になり課税対象となる点です。

総合課税では、累進課税が採用されておりその他の対象の所得を合算して、その所得に応じて税額が変動するものです。

累進課税の最高税率は45%にもなり、とても高額な税金が課される可能性があるため注意する必要があります。また後継者は、出資金を用意する必要がある点もデメリットです。

認定医療法人の活用

医療法人を承継する方法として、認定医療法人を活用する方法があります。

認定医療法人は、持分あり医療法人が厚生労働大臣の認定を受け持分なし医療法人へ移行した法人のことをさします。

認定医療法人制度は、国から認定を受けて持分なし医療法人に移行すると、贈与税が免除されたのち移行して6年経過後に税金が免除されるという制度です。

移行期間に相続などが生じた場合、相続人がそれに相当する担保を提供することにより相続税(出資持分を相続する分)が移行期限まで猶予されることとなります。

さらに期限までに相続人が出資持分を放棄した際は、相続税が免除になります。持分なし医療法人へと移行するには、出資持分の放棄と定款の変更が必要です。

しかし、出資持分を放棄した場合は、医療法人もしくはその他の出資者が放棄分に相当する贈与を受けた扱いとされ贈与税が発生します。

認定医療法人制度では、このようなデメリットを軽減することにより、持分なし医療法人への移行を推し進めるために設けられた制度となっています。

認定医療法人の活用のメリット

認定医療法人を活用するメリットは、出資持分の処分する際の税金に関してリスクがない点と後継者が出資持分を取得する資金が不要な点です。また許認可などもそのまま承継されるので、経営に影響を与えない点もメリットです。

認定医療法人の活用デメリット

認定医療法人を活用するデメリットは、認可を受けるには定められた要件を満たす必要があることです。また出資持分を放棄する必要があるため、出資持分の払い戻しができない点もデメリットとなっています。

その他の事業承継方法

その他の方法として、事業承継先が医療法人の場合は、合併によって事業承継ができます。

合併には吸収合併と新設合併がありどちらの方法の場合でも権利や義務は全て存続する法人に引き継ぐ事ができます。

合併のメリットは許認可を引き継ぐ事ができ、持分を対価にできる為買収資金が必要ない点です。

しかし、デメリットとして簿外債務や偶発債務を引き継いでしまうリスクがある点がデメリットです。また、合併の際は都道府県知事による認可が必要となる点もデメリットと言えます。

クリニック・医院を承継する手順

クリニックや医院を承継をする手順は「親族内承継」と「第三者への承継」で変わります。それぞれの承継手順の概要を説明します。

親族内承継

親族内承継の場合は、以下の手順で進めます。

  1. 条件の整理と承継時期の決定
  2. 専門家への相談
  3. 資産と経営状況の把握
  4. 経営方針や診療科の決定
  5. 承継計画の策定
  6. 承継の実施

上記の流れで承継が行われます。医院の承継は、一般的な事業承継よりも手続きが複雑なため、親族内承継の場合でも専門家に依頼することをお勧めします。

第三者への承継

第三者への承継の場合は、以下の手順で進めます。

  1. 専門家への相談
  2. 秘密保持契約(NDA)・アドバイザリー契約の締結
  3. 各種資料の提出
  4. 医院の価値評価の実施と概要書の作成
  5. ノンネーム登録
  6. 譲受先との面談・基本合意
  7. デューデリジェンス(DD)の実施
  8. 最終合意

上記の流れで承継が行われます。

M&Aの場合は、仲介会社などへの相談を行って何も問題がなければ秘密保持契約とアドバイザリー契約を締結します。

その後に双方のニーズを踏まえた上でマッチングが行われ、トップ同士の面談を通して基本合意を行うことになります。

その後にデューデリジェンスを実施した結果問題なければ最終合意を行い承継が完了という流れです。

デューデリジェンスについて知りたい方は、DD(デューデリジェンス)とは?意味や種類、実施するタイミングについて解説にて詳しく解説しています。

クリニック承継で良くあるトラブルや失敗例

クリニックや医院を承継する際に良くあるトラブルや失敗の原因は以下のとおりです。

  • クリニックの方針が変わったことで患者が離れてしまう
  • 引き継いだにスタッフと人間関係がうまくいかない
  • 建物や設備の老朽化などを考慮しておらずランニングコストによって経営が圧迫される

上記の理由で廃業になってしまったり、経営に困ってしまう場合があります。

急に方針が変わってしまうと患者が違和感を覚えてしまい、違うクリニックや医院に変えてしまう場合があります。

引き継いだスタッフに関しても方針が変わってしまうと、不信感を抱いてしまったり、人間関係がうまくいかなかったりする場合があるでしょう。

その他に、初期費用などの安さに目が行ってしまい、ランニングコストを考慮出来ずに後から困ってしまうケースもあります。

このようなトラブルや失敗を避けるためにも、前院長とクリニックの方針などについてすりあわせたり、引き継いだスタッフと面談の機会を設けるなどの対策が必要です。

まとめ│クリニックや医院を承継することで地域医療を支える

ここまでクリニックや医院の事業承継について解説しました。

クリニックの事業承継は、後継者や譲渡手段が限定されるうえ、様々な届出等が必要となりハードルが高くなっています。

しかし、クリニックや医院は地域にとって欠かせない存在なので、どうにかして存続させていく必要があります。

また承継を行っても、経営方針等によって患者やスタッフが離れたり、想定外のランニングコストによって廃業してしまっては元も子もありません。

そのため、前院長やスタッフと方針のすり合わせを行ったり、建物や医療機器などのランニングコストについても事前にしっかりと確認することが大切です。

クリニックや医院を承継することは、その地域医療を支える事にもつながるでしょう。

またPASONでは、M&Aの仲介・サポートを行っています。PASONには

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というような魅力があります。M&Aを検討している方や疑問やお悩みがある場合は、

ご相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

監修者情報

笹本 拓実
笹本 拓実

2016年度公認会計士試験に合格後、EY新日本有限責任監査法人札幌事務所に入社、その後5年間法定の会計監査業務に従事。
2022年に退職し、株式会社Joblabにて管理部長に就任、コーポレート部門全般を管掌。2023年に共同代表である板井 理と株式会社PASONを設立。
代表取締役に就任し、小規模M&Aに特化したマッチングプラットフォームサービス「PASON」を運営している。