PASON
PASON
M&A 事例・コラム

事業承継税制とは?事業承継や贈与税・相続税の仕組みとメリット・デメリットを解説!

最終更新日:2024-03-30
事業承継税制

事業承継税制とは、円滑化法に基づく認定のもとに、会社や個人事業主の後継者が取得した一定の資産について、贈与税や相続税の納税を猶予する制度です。この事業承継税制には、個人事業主の事業資産を対象とした個人版事業承継税制と、会社の株式などを対象とする法人版事業承継税制があります。

この記事では、事業承継や事業承継税制の説明や、贈与税や相続税の仕組みや事業承継税制のメリット・デメリットを解説していきます。またこの記事の情報は、2024年2月25日時点のものです。

事業承継と事業承継税制とは

ここではまず、事業承継と事業承継税制についての概要を解説していきます。

事業承継とは

事業承継とは、会社の経営を経営者から後継者に引き継ぐ事を意味します。経営者にとって会社を存続させるうえで事業承継というものは避けて通れない課題です。事業承継には、主に3種類の方法があります。

  • 親族内事業承継(息子などの子どもなど)
  • 親族外事業承継(役員または従業員など)
  • 第三者への売却(M&A)

多くの中小企業は、経営者と同時に株主でもあります。そのため事業承継を行う場合は、経営権のみならず自社株を後継者に継承する事が多いです。親族外事業承継や第三者への売却の方法では、自社株を売却することが一般的です。

また親族内事業承継の方法では、生前贈与や相続などで自社株を引き継ぐ傾向にあります。この際に、自社株の評価額が予想を超えて高価になってしまい、贈与税や相続税が高額になってしまうようなケースがあります。

事業承継税制とは

事業承継の際に、あまりにも贈与税や相続税が高額になってしまうと経営が圧迫されてしまい、円滑な事業継承に支障が出てしまいます。そのため、その様な事が起きないように2009年に行われた税制改正によって事業承継税制が定められました。

これを活用することで、事業継承の際に後継者に継承した自社株にかかる贈与税や相続税について納税猶予を受ける事ができます。更にその後に一定期間要件を満たした場合は、猶予された税額について免除されることになります。

2018年度に行われた税制改正では、更なる活用を促すために新たな特例措置が定められました。この特例措置では、特例承継計画と言われる計画書を提出することで、それまであった納税猶予の対象となる非上場株式等の制限総株式数の3分の2までの撤廃や納税猶予割合の引上げ(80%から100%)といった特例措置を受けることができます。

特例承継計画の提出期限は、2018年の改正時には2023年3月31日とされていましたが、2022年に行われた税制改正により1年延長され2024年3月31日までとなりました。

また2024年度にも税制改正が行われる予定で、コロナや物価高騰などを理由に特例承継計画の提出期限が2年延長され2026年3月31日までとなる予定です。また2019年の税制改正では、個人版事業承継税制が定められました。

贈与税と相続税の仕組み

事業承継税制を正しく理解するためには、贈与税と相続税の仕組みを知る必要があります。ここではその仕組みを解説していきます。

贈与税の仕組み

贈与税は、個人から財産などを贈与された人に課せられる税金で、受贈者がその税金を納めることになります。1月1日〜12月31までの1年の間に贈与された財産を合計した金額から、基礎控除の110万円を差し引いた金額を元にして計算されます。贈与税の計算式は以下の通りです。

(贈与を受けた財産の合計額 – 基礎控除額110万円 = 課税価格)× 贈与税の税率 – 控除額 = 贈与税額

また贈与税は一般贈与財産と特例贈与財産と二種類あり、特例税率は直系尊属である贈与者から財産の贈与を受け贈与の年の1月1日において18歳であれば適用されるものです。贈与税率と控除額は以下の通りになります。

➀一般贈与財産の場合

(基礎控除後の課税価格,税率,控除額)

  • 200万円以下・10%・なし
  • 300万円以下・15%・10万円
  • 400万円以下・20%・25万円
  • 600万円以下・30%・65万円
  • 1000万円以下・40%・125万円
  • 1500万円以下・45%・175万円
  • 3000万円以下・50%・250万円
  • 3000万円超・55%・400万円


一般贈与財産の場合は上記のようになります。

➁特例贈与財産の場合

(基礎控除後の課税価格,税率,控除額)

  • 200万円以下・10%・なし
  • 400万円以下・15%・10万円
  • 600万円以下・20%・30万円
  • 1000万円以下・30%・90万円
  • 1500万円以下・40%・190万円
  • 3000万円以下・45%・265万円
  • 4500万円以下・50%・415万円
  • 4500万円超・55%・640万円


特別贈与財産の場合は上記のようになります。

相続税の仕組み

相続税は、被相続人から相続などでその人の財産を受け取った相続人にかかる税金で、相続人が納めるものです。相続税を計算するプロセスは以下の通りです。

  1. 相続税上の評価額である課税価格の合計を計算して、負債の価額と基礎控除を差し引いて課税遺産総額を計算する
  2. 先ほど計算した課税遺産総額を、法定相続分に従いそれぞれ相続人が取得したとして、それぞれの相続税額を計算する
  3. それぞれの相続税を合算し、実際に取得した財産の課税価額に応じた税額を割り振る
  4. 加算や税額控除を適用したうえで、それぞれの納税額を計算する

相続された現預金や不動産、自社株式の評価額などのすべての財産の合計額が、基礎控除を上回らなければ相続税の申告と納税は不要となります。相続税の基礎控除の計算方法は以下の通りです。

3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

以上の計算式で計算できます。続いて相続税率と控除額は以下の通りです。

(法定相続分に応じた財産の取得金額-税率-控除額)

  • 1000万円以下・10%・なし
  • 3000万円以下・15%・50万円
  • 5000万円以下・20%・200万円
  • 1億円以下・30%・700万円
  • 2億円以下・40%・1700万円
  • 3億円以下・45%・2700万円
  • 6億円以下・50%・4200万円
  • 6億円超・55%・7200万円

特別贈与財産は上記のようになっています。

ここで計算例を一つあげます。基礎控除を差し引いてその後の法定相続分に応じた財産の取得金額が3億円の場合では、相続税は以下のとおりです。

(3億円 × 45%) – 2700万円 =   1億800万円

上記のように計算する事ができます。

事業承継税制が必要な理由

事業承継税制が創設されたのは、贈与税や相続税が後継者に対して大きな負担になってしまう場合があるためです。先代経営者から現預金の贈与を受けた場合は、その受け取った分から支払うことができます。

しかし現預金ではなく、自社株式の贈与を受けた場合には、その自社株を贈与税として支払いに充てることができません。そのため自社株とは別に必要な納税額分の現金を要する必要があります。このような状況では、後継者の負担が大きくなってしまいます。

また相続税は、相続開始を知った日の翌日から換算10か月以内に納税を行う必要があります。予想だにしない状況で相続しないといけなくなってしまった場合、後継者は短い期間で納税するための資金を集める必要があります。

納税の期間を超過してしまうと延滞税などがさらに発生してしまうため、後継者が金融機関などからお金を借り入れるような場合もしばしばです。そのためこのような状況を改善するために事業継承税制が定められました。

事業承継税制の要件

事業承継税制を活用し、一定の要件を満たす事で自社株にかかることになる贈与税や相続税の納税猶予を受ける事ができます。更にその後一定期間要件を満たし続けることができれば、猶予された税額はそのまま免除されることになります。

事業承継税制には一般措置と特例措置の2種類があり、対象となる株式数や猶予される税額が異なっています。以下でそれぞれ解説していきます。

1.一般措置

対象株式:発行済議決権株式総数の3分の2まで

適用期間:なし

納税猶予割合:贈与税100%,相続税80%

特例承継計画の提出:不要

後継者:筆頭株主である後継経営者1人のみ

雇用確保要件:5年平均で相続や贈与時の80%以上を維持する

一般措置は、上記のような条件となっています。

2.特例措置

対象株式:全株式

適用期間:2027年12月31日まで

納税猶予割合:贈与税100%,相続税100%

特例承継計画の提出:必要

後継者:持株が10%以上の後継経営者3人まで

雇用確保要件:実質撤廃

特別措置は、上記のような条件となっています。主な違いは納税猶予の対象になる株式数や相続税の猶予割合となっています。また認められる後継者の条件や雇用確保要件にも差があります。

事業承継税制のメリット・デメリット

事業承継税制には、メリットとデメリットどちらも存在します。そのため、その両方どちらも把握しておくことで、利用を行うべきかどうか正しく判断する事ができます。

事業承継税制のメリット

一番大きなメリットは相続税や贈与税などの税金によってかかる負担を軽くできる事です。事業継承を行うと、自社株に応じた税金を納付する必要があります。

この制度を活用すれば、納付義務が免除になったり猶予されます。そのため後継者は、急いで株の売却をしたり、多額の現金を準備する必要がなく事業を承継できます。

またそのほかには、特例措置を活用すれば3人までの後継者に継承ができるため、承継後は共同経営を行うことができる点です。これを活用することにより後継者が争うのを防いだり、親族外承継でも利用できるのもメリットです。

事業承継税制のデメリット

 一方でデメリットは、納税する必要がある状況になってしまうと猶予された税額に加え利子税分も払う必要がある点です。将来的に免除を受けられずに、納税の見込みがあるようなケースではこの制度以外の方法を用いた承継を考えたほうが良いでしょう。

また免除が決定するまでに多くの時間がかかり、認定を受けた後でも定期的に都道府県や税務署などに報告しなければいけないため、手間がかかる点もデメリットです。

また税務署に必要書類にする際に、猶予される贈与税や相続税と利子税の金額に相当する担保を提供する必要がある点も注意しなければなりません。

まとめ│事業承継税制は後継者の税負担を大幅に軽減できる

この記事では、事業承継税制について解説してきました。

事業承継税制を活用すると事業承継した際の後継者にかかる贈与税や相続税を軽減する事ができます。また特例承継計画の提出し特例措置が認められれば更なる負担の軽減が可能です。

しかし、計画の提出や認定申請が必要であったり、都道府県や税務署に定期的に報告する必要があるなどの手間があります。

また納税する必要が生じた場合には、猶予された分のみならず、猶予されていた期間の利子が課税されるなどのデメリットも存在します。そのため事業承継税制のメリット・デメリットを把握して、事業承継税制を活用するべきかどうか判断することが大切です。

またPASONでは、M&Aのマッチングプラットフォームを展開しています。M&Aや事業承継に興味がある方や「会社を売りたい」「事業を買取りたい」とお考えの方は、お気軽にお問い合わせください。 

監修者情報

板井 理
板井 理

2018年度公認会計士試験に合格後、EY新日本有限責任監査法人札幌事務所に入社、その後3年間法定の会計監査業務に従事。
2022年に退職し、2023年に共同代表である笹本 拓実と株式会社PASONを設立。代表取締役に就任し、小規模M&Aに特化したマッチングプラットフォームサービス「PASON」を運営している。