PASON
PASON
M&A 事例・コラム

マルチプル法がM&Aに最適の理由とは?計算式や成功事例を紹介

最終更新日:2024-06-23
マルチプル法とは

企業価値・株式価値を算定する手法のうちもっとも手軽で客観性が高いといわれるのがマルチプル法です。

マーケット・アプローチの手法の一つであり、投資を呼び込む企業の経営戦略の一環として用いられたり、M&Aの初期段階で活用されたりします。

特にM&Aでは当然のように用いられ、成功事例が少なくありません。

ここでは、マルチプル法の意味や成功事例・関連用語と計算式をわかりやすく解説しています。

加えて、仲介会社への相談も視野に入れたケースバイケースの選択にも言及しているのでM&Aを検討中の経営者にとっては必読の記事となっています。ぜひ最後までお読みになって、M&Aを成功させてください。

マルチプル法とは?

マルチプル法はマーケットアプローチと呼ばれる株式評価方法の一つであり、客観的な企業の価値を簡単に算定できる手法です。

同業種の同じような企業との比較によって企業価値を算出します。

市場のトレンドを反映した客観的な企業価値が簡単に求められるため、M&Aにおける売り手買い手双方の企業評価の方法として大いに活用されています。

マルチプルの単語としての意味は、ある特定の財務指標と企業価値、そして時価総額を比べたときの倍率です。

マルチプル法がM&Aに最適の理由 

M&Aにおいては、マルチプル法による客観的かつ適正な企業価値が譲渡企業や譲渡先企業の価格評価の参考となります。

マルチプル法の特徴は、株式上場されていない小さな企業でも株式評価のような客観性のある企業評価ができる点です。

上場企業の場合、1株あたりの株価に発行済み株式数を乗じて株式評価しますが、上場していない企業の場合は株価がわからないため算出できません。

非上場企業の企業価値を算出するには、同業種の類似した企業との比較によるマルチプル法がもっとも有効とされています。

M&Aでの非上場企業による成功事例は多く、マルチプル法が重要視されるのは当然といえるでしょう。

マルチプル法と3つの株価算定の方法

企業価値を評価する株価算定の方法には以下の3つの方法があります。

  • マーケットアプローチ
  • インカムアプローチ
  • コストアプローチ

マルチプル法は、インカムアプローチに含まれる株価算定方法です。

それぞれの概要について解説します。

マーケットアプローチ

マーケットアプローチとは、過去の事例や類似した企業を参考に株価算定して企業評価をする方法です。

リアルタイムの比較ができる客観性の高い算出方法として、M&Aで大いに活用されています。

マーケットアプローチでは、主に以下の2つの方法が用いられています。

  • マルチプル法(類似会社比準法)
  • 類似取引比準法

「類似取引比準法」とは、評価対象企業と同業種または類似する上場企業の、M&A取引額から算出される利益倍率に比準して企業価値を求める方法です。

「類似取引比準法」は買収によるプレミアが加味されるため、マルチプル法に比べて評価が高くなる傾向にあります。

 インカムアプローチ

インカムアプローチとは、将来見込まれる収益やキャッシュフローの予測を基準として株価算定する方法です。

企業の将来性や成長性を反映できるため、M&Aをはじめ投資活動の指標や資産評価としても用いられています。

インカムアプローチには以下のような3つの方法があります。

  • 収益還元法
  • 配当還元法
  • DCF法

「収益還元法」とは、将来発生する利益を現在の価値に変換して企業評価する方法です。

「配当還元法」とは、将来の配当金から企業価値を算出します。

「DCF法」は、将来のキャッシュフローを現在価値に変換して企業価値を求めます。

いずれの方法も将来価値がベースとなるため、主観的となりがちです。

また、期待通りにならない可能性もあります。十分な分析と検証が必要でしょう。

M&Aにおいては、こうしたインカムアプローチのデメリットを補う意味としても、客観性に富んだマルチプル法が用いられています。

コストアプローチ

コストアプローチとは、対象企業の資本および純資産を基準として企業価値を算出する方法です。

以下のような2つの種類があります。

  • 簿価純資産法
  • 時価純資産法

「簿価純資産法」は資産と負債の帳簿価額、すなわち賃借対照表の記録そのものが株価の価値となります。

「時価純資産法」は帳簿上の資産と負債を時価換算して企業を算出する方法です。

どちらも現時点での数値を基準としているため客観性に富み、容易に算出できるメリットがあります。

反面、将来的な利益や企業価値が見えにくいデメリットがあり、M&Aの株式評価の方法としてはあまり用いられていません。

コストアプローチに関しては、コストアプローチとは?算定方法やメリット・デメリットを解説!で詳しく解説しています。

ご参照ください。

マルチプル法のメリット

マルチプル法の主なメリットは以下の3つです。

  • 客観性が高い
  • 市場環境が反映される
  • 将来価値が反映される

それぞれについて解説します。

客観性が高い

マルチプル法は極めて客観性の高い株式評価の方法です。

なぜなら、マルチプル法が基準とする指標は上場企業から算出されるからです。

上場企業の株式は市場に公開され、多数の取引参加者によって評価されるため主観の入り込む余地がありません。

したがって、マルチプル法は企業評価の客観性という点においては、もっとも優れた方法といえます。

複数の上場企業から企業価値を計算して平均値を出せば、いっそう客観性は高まるでしょう。

市場環境が反映される

マルチプル法は、上場企業のデータが基準となるため市場環境を反映しやすいメリットがあります。

特に非上場企業の場合、インカムアプローチやコストアプローチを用いると市場動向と乖離した評価になりがちです。

たとえば過去5年間の業績が変わらないとしても、業界全体が5年間下降気味であるなら、企業としての評価は相対的に高くなります。

こうした市場環境を反映させて評価できる点は、非上場企業にとって大きなメリットです。

将来価値が反映される

マルチプル法には、現在の市場環境だけでなく将来価値も反映されています。

なぜなら、マルチプル法が指標とする上場企業の株式には将来への成長期待、あるいは失速への懸念が含まれているからです。

この将来価値の反映は、M&Aにおいて重要な要素となります。

たとえば、対象企業の業績が毎年変わらなかったとしても、属する業界が成長段階にあるときは取引価額が高くなり、業界が縮小傾向の場合には低くなります。

マルチプル法のデメリット

マルチプル法のデメリットは以下の2点です。

  • 類似企業の選定が難しい
  • 選定企業の変動に影響される

それぞれについて解説します。

類似企業の選定が難しい

マルチプル法においてもっとも大切なポイントであると共に、もっとも難しいのが対象企業と類似した企業の選定作業です。

上場している会社は3,000社以上もあります。その中から、類似した企業を探し出すのは困難を極めるのが現状。

しかし、妥協して選んでしまうと、対象企業との差が大きすぎて適切な企業評価はできないかもしれません。

あるいは、選定者の主観が入り込んでしまうケース、業種によってはマルチプル法を適用できないなどの懸念も出てきます。

類似企業の選定は、より多くの視点から慎重に行う必要があります。

選定企業の変動に左右される

マルチプル法で選定した類似企業の株価が動くと、対象企業の企業価値も変わってしまいます。

これは、メリットとして挙げた「市場環境の反映」の裏返しであり、市場環境の影響を受けやすいということです。

株式市場は、時期によって特定の業種だけ激しく急変したり、短期間での変動を繰り返したりすることもあります。

そうした時期にマルチプル法を採用するのはマイナスです。

マルチプル法を採用する際には業界動向を確認し、類似企業の選定にもゆとりを持って臨みましょう。

マルチプル法によるM&Aの成功事例

ここでは、実際にマルチプル法を採用したM&Aの成功事例を3つ紹介します。

  • SBIホールディングスと新生銀行
  • ZホールディングスとZOZO
  • ニトリと島忠

それぞれの概要を解説します。

SBIホールディングスと新生銀行

総合的な金融サービスを展開するSBIホールディングスと、商業銀行である新生銀行とのM&Aが成約確定したのは2021年12月のこと。

事実上SBIホールディングスによる新生銀行の子会社化であり、取得金額は1,138億円といわれています。

この事例でのSBIホールディングスによるマルチプル法での株式価値は、市場での株式価値より高く、DDM法(将来受け取ると予想されるキャッシュフローの現在価値)で求められる株式価値より低いという結果になりました。

つまり、SBIホールディングスは、マルチプル法を含む最低でも3つの観点から新生銀行の評価調査を行ったことになります。

ZホールディングスとZOZO

イーコマース事業を展開するZホールディングスと、ファッションECサイトZOZOのM&Aが成約したのは2019年11月です。

ZホールディングスがZOZOを子会社化するかたちとなり、譲渡金額は約4,007億円といわれています。

譲渡企業であるZOZOはシナジーを強化を目的とし、、譲受企業であるZホールディングスはファッションECを強化するために取引を行いました。

Zホールディングスが算出したマルチプル法でのZOZOの株式価値は、市場の株式価値より高く、DCF法における株式価値とほぼ同等という結果です。

ニトリと島忠

2020年12月には、家具・インテリアの販売大手ニトリと、家具・ホームセンター事業を展開する島忠のM&Aが成約されました。

ニトリはホームセンター事業への新規参入を目的とし、島忠はシナジーの実現を目指してのM&A成約です。

結果として、ニトリが島忠を子会社化することになりました。譲渡金額は約1,650億円といわれています。

ニトリによる島忠のマルチプル法での株式評価は、市場での株式価値より安く、DCF法での株式価値よりも安い結果となりました。

マルチプル法で主に使われる4つの指標

マルチプル法で使われる代表的な指標は以下の4つです。

  • EBIT(利払前・税引前利益)
  • EBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)
  • PER(株価収益率)
  • PBR(株価純資産倍率)

それぞれについて解説します。

EBIT(利払前・税引前利益)

EBIT(イービット)は、支払利息や受取利息などの費用や収益の影響を取り除いた、純粋な事業活動による利益だけを表す指標です。

EBITはEarnings Before Interest and Taxesの単語それぞれの頭文字による略語であり、日本語での意味は「利息や税金控除前の収益」を指した言葉。

利息とは、借入金に対する利息(支払利息)と預金などに対する利息(受取利息)を表し、EBITを求める際には支払利息から受取利息を差し引きます。

EBITを求める計算式は以下の通りです。

EBIT=税引前当期純利益+支払利息-受取利息

起業して間もない会社の場合、借入による利息の負担が大きいため、EBITを指標として利益判断するケースが多くなります。

EBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)

EBITDA(イービットディーエー・イービットダー)は営業利益に減価償却費を加えて計算した指標です。

Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortizationの頭文字から構成された略語であり、利息控除前の利益と減価償却費、利払い前や税引き前、減価償却前などの意味があります。

意味が広義なため、さまざまな計算式がありますが、もっともよく使われるのが以下の計算式です。

EBITDA = 営業利益 + 減価償却費

EBITDAは、純粋な利益に利息や減価償却費などを加えるため、よりキャッシュベースに近い本業の儲けを示すことができます。

EBITDAについての他の計算式や、より詳しい情報を知りたい方はEBITDAの意味とは?計算方法やEBITとの違い・注意点などを解説!をご参照ください。

PER(株価収益率)

PER(ピーイーアール)は企業の収益に対する株価の状況を表す指標です。

Price Earnings Ratioの略語であり、直訳すると株価収益率を意味します。

企業の利益に対する株式の時価総額を評価するため、マルチプル法との関連性の強さはもちろん投資家も注目する指標です。

以下のような計算式が用いられます。計算式は以下のとおりです。

PER = 株価 ÷ 1株の当期純利益

PER値が低ければ現在の株価は割安と判断され、投資金額の回収にさほどの時間を要しないことがわかります。

逆にPER値が高くなると、投資金の回収に時間がかかるということです。

PBR(株価純資産倍率)

PBR(ピービーアール)は、企業の純資産に対する株価の水準を判断する指標です。

Price Book-value Ratioの略語であり、日本語の意味は価格簿価比率となります。

PERと同様に、対象企業の株価算定がしやすいため、マルチプル法で多用されているのが特徴。

PBRの計算式は下記の通りです。

PBR = 株価 ÷ 1株あたりの純資産

PBR値が低いほど割安であり、高ければ割高と判断できます。

ただし、比較する企業によっては実際とかけ離れてしまうため、目線を合わせた慎重な選定が必要です。

PBRとPERやROEとの違いや、PBRについてのより詳しい情報をお知りになりたい方は、ぜひPBRとは?PERやROEとの違いやメリット・デメリットなどを解説!の記事をご覧ください。

マルチプル法も万能ではない!専門家への相談も検討する

4つの指標によるマルチプル法は、M&Aの初期段階にもっとも適した企業評価方法です。

しかし、どの財務情報をベースにするか、どの指標を用いるかによって企業価値は変動します。

計算結果によっては企業の経営の方向性が変わり、あるいはM&Aにおいて買収後のトラブルに発展してしまう可能性も。

適正な財務情報の検証が必要であり、専門業者へ相談するのが望ましいでしょう。

PASONは、M&Aに特化したプラットフォームを展開し、仲介・サポートを行っています。

ご相談は無料で、全案件について財務情報を検証済みです。

売り手企業の利用は無料、買い手企業においても業界最低水準の料金であり、なおかつ成功報酬もありません。

M&Aが初めての方にも、成約まで専任スタッフが手厚くサポートします。

本気でM&Aをお考えの経営者の方はもちろん、M&Aについてのわからない点やお悩みをお持ちの方も、ぜひお気軽にお問い合わせください。

【売り手側の企業様はこちらから】
【買い手側の企業様はこちらから】

マルチプル法はケースバイケースの選択が必要

本記事では、マルチプル法とはどのようなものなのか、計算式や成功事例などについて詳しく解説してきました。企業の相対的価値を簡単に算出できるマルチプル法は、M&Aに欠かせない企業評価の方法です。

株式市場で株価による客観的評価を得られない非上場企業の経営者にとっては必須のアイテムといえるでしょう。

その一方、財務情報で企業価値が変わったり、経営状態によっては使用が適さないケースもあります。

他の算定方法の検証、あるいは専門家やM&A仲介業者への相談も視野に入れておきましょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。以上、参考になると幸いです。

監修者情報

板井 理
板井 理

2018年度公認会計士試験に合格後、EY新日本有限責任監査法人札幌事務所に入社、その後3年間法定の会計監査業務に従事。
2022年に退職し、2023年に共同代表である笹本 拓実と株式会社PASONを設立。代表取締役に就任し、小規模M&Aに特化したマッチングプラットフォームサービス「PASON」を運営している。