PASON
PASON
M&A 事例・コラム

コストアプローチとは?算定方法やメリット・デメリットを解説!

最終更新日:2024-05-11
コストアプローチとは

M&Aなどを検討する際に譲渡対象となる企業の価値の算出や評価方法には、客観性が必要になります。

価値の算出に根拠が無ければ双方ともに交渉することすらできません。その様な事態を防ぐために、企業の価値を評価する方法はいくつかあり、その方法の一つがコストアプローチです。

企業評価の方法はいくつかありますが、その企業のビジネスモデルや収益力などによって適切な評価方法も変わってきます。

この記事では、コストアプローチによる評価方法の解説やメリット・デメリットを解説していきます。

コストアプローチとは

M&Aなどを検討する場合には、取引価格を決める必要があります。そしてその取引価格には、一定の根拠が必要になるため、明確な根拠を基にした客観性に優れた企業価値評価と言われる評価方法が用いられる事が一般的です。

コストアプローチは、この評価方法の1つで貸借対照表の純資産価値に着目して評価するものです。ストックアプローチやネットアセットアプローチと呼ばれる事もあります。

これは、中小企業のM&Aで用いられることが多く、代表的なものでは簿価純資産法や時価純資産及び清算価値法などがあります。

簿価純資産法

簿価純資産法とは、企業の経営成績や財務状態を表す決算書に計上されている資産から負債を差し引いて企業価値を求めます。

その企業価値を発行済みの株式総数で割ることにより1株当たりの価値を求める事ができます。

しかし、この方法は帳簿の数値を基にして計算されているため、現在の価値が反映されているわけではありません。

そのため帳簿で計算された金額が、その時点での価値を正しく反映している可能性は低く、時価との差である含み益・含み損が生じてしまいます。

この方法はM&Aで活用される事は少なく、時価との差が少ないと考えられる場合や時価を評価する費用をかけるのが難しい場合において活用される場合があります。

時価純資産法

時価純資産法とは、純資産の時価評価を行いそれを基準に企業の価値を算出する方法です。

しかし全ての資産の時価評価をするには手間もコストもかかりすぎてしまうため、修正簿価純資産法とも言われています。価値の移り変わりの激しい資産は、主に土地や不動産、有価証券などです。

これらは時価評価がしやすく含み損益の影響が大きいため、時価純資産法で最も注目される部分になります。

この手法では、現在保有している資産や負債を基に算出するため、のれん代と言われるその企業の将来性ともいえるブランド力や技術力といった簿価に簿価反映されていない無形資産が反映されていません。

時価純資産+のれん

これは時価純資産にのれんを加算して企業価値を算出する方法です。

のれんは、帳簿上で評価できない企業の価値のことです。その時点では資産として反映されていなくても、将来的に収益を生み出せるものであれば、現在の価値に換算してのれんとして計上します。

この方法は、企業の将来的な収益性も考慮されるため、中小企業のM&Aで活用される事が多くなっています。

のれんの評価方法

のれんは、その企業の年間利益額に継続見込み年数を乗じて算出されます。

この年数は1〜5年として計算される事が一般的です。年買法もしくは年倍法と呼ばれるもので継続見込み年数は、将来性に応じて変動します。

この評価方法は、合理性はなく簡易的な評価方法になるため、中小企業のM&Aで活用される事が多いようです。

また、のれんの算出には年買法以外に超過収益還元法と言われるものがあります。これは将来得られる実際収益から、期待収益を差し引いた金額を超過収益とし割引率で除して算出されます。

清算価値法

清算価値法とは、基本的に会社を清算する際に使用される算定方法です。

清算価値法では、全資産を売却もしくは処分した額から弁済する負債の金額を差し引いた残余額を基にして企業価値を算出する方法です。これは基本的に清算価値が企業の価値の下限となるケースが多いようです。

再調達原価法

再調達原価法とは、企業が保有する資産や負債をそれらの再調達原価に評価替えすることで、時価純資産価額を算出する方法です。

これは対象事業を1から作りあげる場合にかかるコストを尺度として評価する方法です。客観的に評価しやすいが、過小評価になりやすいという特徴があります。

この手法は一般的にM&Aの買手が望ましい買収価格を決定する場合や、売手側がM&Aが自社にとって必要なのかを判断する際に用いられます。

コストアプローチのメリット

コストアプローチによる評価のメリットは、算出された価値の客観性が高い事です。

貸借対照表を基に計算されるため主観が混じることはありません。M&Aの価格交渉は、明確な根拠に基づいた企業価値でなければ交渉になりません。

そのためこの客観性の高いコストアプローチによって算出された企業価値であれば、納得感を持って双方が交渉に臨む事ができます。

またそのほかの財務指標を用いる必要がなく、算出方法が簡単であるため中小企業の経営者には扱いやすく、これをそのままM&Aで活用することが増えてきています。

コストアプローチのデメリット

コストアプローチによる評価のデメリットは、基本的に将来的な収益価値を反映できない事です。

純資産額を基準にして評価をするため会社の清算が前提となっているため、これからの存続を前提にしている会社の評価には不適切と言えます。

一般的にM&Aを使った会社売却では、子会社としてこれからも存続していく事になるため、清算価値より将来的な収益価値を考慮した評価が適切と言えるでしょう。

また簿価純資産法を利用する場合は、時価による評価を含めないため含み損益などを考慮できません。そのため所有している土地の価値が上昇していても、それが企業価値に反映されない点もデメリットと言えます。

その他の企業価値評価方法

コストアプローチ以外にも、企業評価するための方法に同業他社との比較によって評価する「マーケットアプローチ」と将来の利益予想によって評価する「インカムアプローチ」があります。

マーケットアプローチ

マーケットアプローチとは、対象企業と同業他社の時価総額を比較したり、似ているM&Aの事例を参考にして企業の価値を評価する方法です。

客観性の高い価値を算出できるが、中小企業と同じビジネスモデルで近い規模の上場企業を探すことが困難という点が欠点です。これには以下の2つの方法があります。

  • 類似企業比較法
  • 類似取引比準法

マーケットアプローチのメリットは、類似企業や市場の株価を基準に評価するためリアルタイムの比較ができ、客観性が高いという点です。

一方でデメリットは、類似企業を見つけることが大変で特にベンチャー企業の評価などには適用が難しい点です。また株価による影響が大きくその企業が持っている価値を過大評価や過小評価してしまうリスクがあります。

類似企業比較法

類似企業比較法とは、上場企業のなかから評価対象になる企業とよく似た企業を選び出して、さまざまな財務分析を行いそこから評価額や株式総額を割り出す方法です。

この方法では、売上高やEBITDA、EBITなど複数の指標から選択して計算される事が多いです。この方法では、比較対象である類似企業の選定がとても難しく、展開している事業や成長性などを参考にすることが多いです。

しかし、これには適した選定方法であるかどうかの基準があるわけではなく、そもそも比較対象が存在しない場合もあります。

またEBITDAについて詳しく知りたい方は、EBITDAの意味とは?計算方法やEBITとの違い・注意点などを解説!にて解説しています。

類似取引比準法

類似取引比準法とは、同一の業界で行われた過去のM&A事例を調べて、そこから譲渡価格や財務指標を基に取引倍率を算出して、その取引倍率を基に価格を計算する方法です。

しかしこの方法は、よく似た企業のM&Aの事例があり上場企業で、財務上の数値が公表されているという条件がそろった時にのみ実施できます。

また日本においては、取引事例などの情報の整理が進んでおらず、あまり活用されていないのが現状です。

インカムアプローチ

インカムアプローチとは、対象企業がこれから上げられる収益やキャッシュフロー予想に基づいて価値評価をする方法です。

これは、企業の将来性や固有の性質を評価に反映させる点について優れていますが、期待する将来性が正しいものなのかという客観性が問題となります。またこれには以下の2つの方法があります。

  • DCF法
  • 配当還元法

インカムアプローチのメリットは、企業の将来性に注目して評価するため、M&Aなどの未来の収益性を重視するような場面で効果的な方法です。

デメリットは、M&Aを実施したが当初予定していた収益が見込めないなどのリスクがある点です。そのため試算が現実的であるかや、現実に即した評価を行っているかといった点に注意する必要があります。

DCF法

DCF法(Discount Cash Flow)は、企業が生み出すキャッシュフローと言われる企業が自由に使えるお金に注目して価値を算出する方法です。

フリーキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業の価値を算出します。DCF法ではのれん代についても加味するため、キャッシュフローに反映されていない企業価値の部分をより正確に測ることができます。

配当還元法

配当還元法は、将来の配当額の予想値を基にして企業価値を算出する方法です。

具体的には配当額を利率で除して、元本の株式を求める事で企業価値を算出します。しかし企業が定める方策によって今後の配当額は変動するため、配当額の確定的な値を出すことが出来ません。

そのためそのような企業のM&Aではあまり活用されていませんが、非公開会社や株主が少ない企業において活用されることがあります。

まとめ│コストアプローチは中小企業のM&Aでも活用されている

この記事では、コストアプローチについて解説してきました。

コストアプローチとは、企業価値評価の一つで、簿価純資産法や時価純資産法、時価純資産+のれんなどの方法があります。コストアプローチによる評価のメリットは、求められた価値の客観性の高さです。

一方でデメリットは、企業が持つ資産と負債に注目するため将来性を評価しにくい点です。

コストアプローチは、中小企業のM&Aにおいて採用される事が多いため、この機会にコストアプローチによる価値の算定方法の理解を深めましょう。

PASONでは、M&Aの仲介・サポートを行っています。PASONには

  • 財務情報を検証済み
  • 利用料金は業界最低水準
  • 本気の買手と出会える

というような魅力があります。M&Aを検討している方や疑問やお悩みがある場合は、
ご相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

監修者情報

笹本 拓実
笹本 拓実

2016年度公認会計士試験に合格後、EY新日本有限責任監査法人札幌事務所に入社、その後5年間法定の会計監査業務に従事。
2022年に退職し、株式会社Joblabにて管理部長に就任、コーポレート部門全般を管掌。2023年に共同代表である板井 理と株式会社PASONを設立。
代表取締役に就任し、小規模M&Aに特化したマッチングプラットフォームサービス「PASON」を運営している。