PASON
PASON
M&A 事例・コラム

株式譲渡による事業承継とは?事業承継税制の特例措置の要件も解説!

最終更新日:2024-05-11
事業承継 株式譲渡 特例

事業承継とは、会社の経営権や経営理念、資産・負債などを誰かに引き継ぐ取引の事です。

この株式譲渡による事業承継は、中小企業において多く活用されている方法です。

現在は後継者不足が深刻となっており、その状況に歯止めをかける為に株式や事業資産にかかる贈与税や相続税について負担が軽減される事業承継税制において特例措置が設けられています。

この記事では、株式譲渡による事業承継についてや株式譲渡の手順、事業承継税制の特例措置について解説していきます。

株式譲渡による事業承継とは

株式譲渡による事業承継とは、現在の経営者などが保有している株式を後継者に譲り渡すことによって、経営権を引き継ぐことをさします。

株主の権利とは

株主の権利(株主権)には、主に以下の3つの権利があります。

  1. 株主総会に参加して議決に加わる権利(議決権)
  2. 配当金をもらうことができる権利(配当請求権)
  3. 会社が解散したときに残余財産をもらうことができる権利(残余財産請求権)

会社法では、株主平等の原則が定められているため多く出資を行った持株数が多い株主ほど、多くの議決権を保有しています。

株式譲渡の方法

株式譲渡を行う方法は、主に以下の3つの方法です。

  • 生前贈与
  • 相続
  • 売買

上記の方法をそれぞれ解説していきます。

生前贈与

生前贈与は主に親族内継承をする場合に多く活用される方法です。贈与契約によって後継者に自社の株式を譲渡します。

譲渡する側は財産を無償で譲り渡す意思表示をし、譲受側が応じる事で成立し、それを証明する贈与契約書を作成する事が一般的な流れです。生前贈与には以下のメリットがあります。

  • 相続時精算課税制度を活用して、素早く株式譲渡ができる
  • 暦年課税を活用して、贈与税を抑えられる

上記の2つが主なメリットです。この制度のどちらかを活用することで、控除の範囲内に収まるように贈与を行う事によって贈与税を抑える事ができます。

ただし、継続して同額を贈与し続けていると定期贈与とみなされ贈与税が課される可能性があるため注意しましょう。

相続時精算課税制度とは、譲受側が2500万円まで贈与税を納めずに贈与を受ける事ができる制度です。

贈与者が亡くなった時にその相続財産の贈与時の価額と相続財産の価額を合計した金額から相続税額を計算して、一括して相続税として納付を行う制度です。

また暦年課税は、1年間に贈与された財産の合計に応じて課税される方式の事で、1人当たり年間110万円の基礎控除があります。

相続

相続を行う場合も、親族内継承で多く活用される方法です。これは現経営者が死亡してから、遺言などによって株式を譲渡します。生前贈与を行わずに、相続した場合のメリットは以下の2つです。

  • 相続税の基礎控除額が大きいため、それによって課税額を低く抑える事ができる
  • 遺言書などによって、後継者を決める事ができる

主に上記の2つがメリットです。相続を行う際の基礎控除額は最低でも3000万円ととても大きいため、相続時の納税額を軽減できる場合があります。

相続税が基礎控除額内に収まっているような場合は、相続税はかかりません。また相続を行う際に遺言書などがあれば、会社の経営権を望んだ後継者に譲ることが可能です。

いくつかデメリットもあり、相続を行う株式の価額が基礎控除を上回ってしまうと相続税が多額になる可能性がある事と、相続人が複数いる場合は相続争いや遺留分についてもめるリスクがあります。

遺留分とは一定の相続人に対して遺言によっても奪うことのできない遺産の一定割合の留保分のことです。

事業承継の際に株式が分散しては意思決定に時間がかかるようになってしまいます。

そのような事態を防ぐために、遺留分に関する民法特例を活用し除外合意や固定合意といった合意を行ったりすることによって遺留分によるトラブルを軽減することができます。

また遺留分については、事業承継における遺留分とは?民法特例の適用条件や適用する手順を解説!にて詳しく解説しています。

売買

保有している株式を金銭等を対価に譲渡する方法です。

この方法は、M&Aなどによって第三者に対する事業継承のほとんどが、売買による株式譲渡です売買によるメリットは株式の売却によって多額の売却益を得られる可能性がある点と遺留分などの問題が発生しない点です。売買によって株式譲渡を行うと多額の売却益を得られる可能性があります。

また相続とは違い、金銭によって株式を買い取る形になるので、他の相続人によって遺留分の主張される事がないためスムーズな事業承継が可能です。

しかし譲渡所得税がかかったり、譲受側にはある程度の資金力が必要になる点がデメリットです。

事業承継の種類

事業承継は、誰に引き継ぐかによって以下の3種類に分けられます。

  • 親族内事業承継
  • 社内事業承継
  • M&Aによる事業承継

上記をそれぞれ解説していきます。また事業承継については、こちらの記事にて詳しく解説しています。

親族内事業承継

親族内事業承継は、自分の子供などの現経営者の親族に事業を引き継ぐことです。

心情面や準備期間を長くとりやすく、相続等によって財産や株式の後継者に転移ができるといった要素から、所有と経営を包括的な継承ができる点でメリットです。

しかし一方で後継者候補が複数にわたる場合は、後継者の決定自体や経営権を集中させることが難しい場合があります。

社内事業承継

社内事業承継は、信頼できる従業員や役員などの中から経営者としてふさわしいと思える人物に事業を引き継ぎます。

メリットは経営能力の高い自分を見極めて承継することができ、長期間働いてきた従業員などであれば経営方針などの一貫性が期待できます。また周囲の理解も得られやすいです。

しかし一方で後継者は、買収資金の調達や納税のための資金の調達によって負担を負います。

M&Aによる事業承継

M&Aによる事業承継は、社外から経営にふさわしいと思う人物や会社を探して事業を引き継ぎます。

メリットは親族や社内に適任者がいない場合でも広く候補者を探すことができる点と会社売却の利益を得る事ができる事です。

しかし必ずしも希望した金額で売却できるとは限らず、事業継承そのものも思うように進まない場合もあります。

株式譲渡の手順

株式譲渡は手続きが比較的簡単で事業承継において活用しやすく、中小企業のM&Aで最も活用されている方法です。株式譲渡は譲渡人と譲受人双方の合意があれば可能です。

しかし、会社法に則った手続きを行わないと、譲渡が無効とされる場合があります。

上場企業の株式は原則的に自由に譲渡することが可能ですが、非上場企業の株式は基本的に譲渡制限が課されているのが一般的です。

そのため中小企業の株式は基本的に自由に譲渡することができないのが現状です。株式譲渡を行う手順は以下の通りです。

  1. 譲渡承認の請求
  2. 取締役会もしくは株主総会での承認
  3. 決定内容の通知
  4. 株式譲渡契約の締結
  5. 株主名簿の書き換え、証明書の交付
  6. 決済の手続き

それぞれ解説していきます。

譲渡承認の請求

譲渡承認の請求とは、第三者に対して譲渡制限株式の譲渡に関して会社から承認を受ける手続きのことです。

請求された会社は株式譲渡の承認の是非を決定する必要があります。これはその株式が譲渡制限株式の場合に必要になります。譲渡制限株式とは種類株式の1つで、譲渡を行う際には、会社の承認が必要です。

そのため会社にとって好ましくない第三者が株主になることを防ぐことができます。中小企業は、経営権を安定させるために譲渡制限をかけている事がほとんどです。

取締役会もしくは株主総会での承認

譲渡承認請求を受けた会社は、取締役会設置会社の場合は取締役会、取締役会を設置していない会社であれば株主総会によって株式譲渡承認の手続きを行います。

しかし定款によって定められている場合は、取締役会設置会社であっても株主総会によって承認することも可能です。承認されない場合は、企業は会社で株式を買い取るか、指定買取人によって買収するかを決める必要があります。

決定内容の通知

企業は取締役会もしくは株主総会によって決定した事項について、承認請求をした人物に対して通知の手続きを行います。

これは譲渡承認請求が行われた日から2週間以内に行わなければなりません。内容に関係なく株式譲渡の承認が決定したとみなされるもので、この手続きの期限は、定款によって短くすることもできます。

また株式譲渡を承認しない場合では、2週間以内に通知を行う手続きをする必要があり、その場合は株式を会社か指定買取人が買い取るかについても通知しなければなりません。

また会社の場合は40日以内もしくは指定買取人の場合は10日以内に通知手続きを行わないと、譲渡を承認したとみなされるため注意が必要です。

株式譲渡契約の締結

株式譲渡の承認が下りた場合は、買手と売手がデューデリジェンスや交渉を経て、売却価格などの条件に双方が合意することで株式譲渡契約を締結手続きを行います。

この契約書は主に、株式の売買によって株式と現金の交換を保証する目的で作成します。主な内容は以下の通りです。

  • 譲渡の合意・譲渡日
  • 譲渡価格
  • 株式譲渡目的
  • 対価支払い方法
  • 取引内容
  • 譲渡実行日前後の誓約事項
  • 損害賠償・補償 
  • 秘密保持

上記の内容が主な項目です。法人の取引に関する契約書の保管期間は通常7年間となっているため7年間は株式譲渡契約書を保存しておく必要があります。

株主名簿の書き換え・証明書の交付

株式譲渡後に会社は株式名簿を書き換える手続きを行う必要があります。

現在は多くの会社で株券の発行をしておらず、株主が権利主張を行うために株主名簿への記載が必要となっています。基本的には株式譲渡が完了したタイミングで会社に対して株式名簿の名義書換請求手続きが必要です。

決済の手続き

株式譲渡契約では、譲渡人が対象株式を譲受人へと譲渡し、譲受人がその対価を譲渡人に支払う必要があります。これは一般的に契約締結時に一括決済されます。

しかし、株式譲渡の前提条件を定める場合もあり、それは契約を締結してから一定期間たってから決済されるパターンです。この期間は一般的に1〜2ヶ月が目安であり、必要以上に長い期間を設けてしまうと金銭トラブルになってしまうリスクがあるため注意しましょう。

事業承継税制の特例について

事業承継税制とは円滑化法に基づく認定のもとに、会社や個人事業の後継者が取得した一定資産について、贈与税や相続税の納税を猶予する制度です。

この制度には会社の株式を対象とする法人版事業承継税制と個人事業者の事業用資産を対象とする個人版事業承継税制があります。

またこの制度には特例があり、特例承継計画を都道府県に提出することによって、税負担を軽くする事ができます。これは法人版は令和9年12月31日まで、個人版は令和10年12月31日までです。(令和6年4月現在)

事業承継税制については、事業承継税制とは?事業承継や贈与税・相続税の仕組みとメリット・デメリットを解説!にて詳しく解説しています。

事業承継税制の要件

事業承継税制の一般措置では、総株式の最大3分の2まで対象となりますが、特例措置の場合は全株式が対象です。

納税猶予割合も一般措置では贈与税100%・相続税80%となりますが、特例措置の場合は、贈与税100%・相続税100%です。また継承パターンも一般措置では後継者1人から、特例措置では最大3名までとなっています。

事業承継税制の特例措置を受ける流れ

事業承継税制において特例措置を受ける流れは相続税と贈与税の場合で変わります。それぞれ簡単に解説していきます。

事業承継税制の特例│相続税の場合

以下の手順によって特例を受ける事ができます。

  1. 特例措置を活用する場合、特例承認計画を都道府県庁に提出する
  2. 相続開始後、8ヵ月目までに都道府県庁に事業承継税制の申請をする
  3. 審査を受け認定されれば、都道府県庁から認定書が交付される
  4. 認定書の写しを添付して相続税の申告書等を税務署に提出する
  5. 納税猶予税額及び利子税の額に見合う担保を提供して、税務署に申告を行う

上記の手続きのほかに、猶予開始から5年間は都道府県庁に「年次報告書」税務署に継続届出書を毎年提出しなければなりません。5年経過した後は税務署に対して3年に1度「継続届出書」を提出することとなります。

5年経過後に後継者が更に後継者へと贈与を行う猶予継続贈与をすると、相続税が免除されます。また後継者が死亡した場合にも免除です。

事業承継税制の特例│贈与税の場合

贈与税の場合も手続きは、基本的に相続税の場合と同じです。

注意すべき点は、贈与税の納税猶予期間中に先代経営者が死亡した場合は贈与税が免除されますが、相続税の納税義務が発生する可能性がある点です。

しかしその場合は、一定の手続きを踏むことにより相続税の納税猶予に切り替える事ができます。 

まとめ│事業承継税制を活用して会社を継続させよう

ここまで、株式譲渡による事業承継と事業承継税制の特例について解説してきました。

株式譲渡には生前贈与や相続、売買などの方法があります。事業承継の種類は主に3つあり、「親族内事業承継」「社内事業承継」「M&Aによる事業継承」の3つです。

現在の日本では、後継者不足が深刻となっているため、より事業を引き継ぎやすくするため事業承継税制の特例が平成30年度税制改正によって創設されました。

事業承継税制の特例措置を活用する事によって、相続税や贈与税による税負担を軽減する事ができます。優れた技術やノウハウを有しているにも関わらず、後継者が見つからず廃業してしまう企業は少なくありません。

そのため事業承継税制の特例を活用して事業を継続させることができる会社が増えていくことが期待されます。

PASONでは、M&Aの仲介・サポートを行っています。PASONの魅力は

  • 財務情報を検証済み
  • 利用料金は業界最低水準
  • 本気の買手と出会える

というような魅力があります。M&Aを検討している方や疑問やお悩みがある場合は、ぜひお気軽にご相談やお問い合わせください。

監修者情報

板井 理
板井 理

2018年度公認会計士試験に合格後、EY新日本有限責任監査法人札幌事務所に入社、その後3年間法定の会計監査業務に従事。
2022年に退職し、2023年に共同代表である笹本 拓実と株式会社PASONを設立。代表取締役に就任し、小規模M&Aに特化したマッチングプラットフォームサービス「PASON」を運営している。