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株式等売渡請求とは?メリット・デメリットやスクイーズアウトについて解説!

最終更新日:2024-04-21
株式等売渡請求とは

平成26年の会社法改正で特別支配株主の株式等売渡請求という制度が設けられました。

これは、経営権を集中させる一つの手段として有効な制度で、少数株主を排除することができるものです。事業継承やM&Aのような場面でも活用されることもあります。

株式等売渡請求制度ができる前の手法では、手続きにどうしても時間がかかってしまい、M&Aのような場面では非常に不便な状態でした。

しかし現在は、株式等売渡請求が導入されスムーズに手続きを行うことができます。この記事では、株式等売渡請求の意味やメリット・デメリット、流れなどを解説していきます。

株式等売渡請求とは

株式等売渡請求とは、対象会社の特別支配株主と言われる人物が、少数株主が保有している株式を強制的に全て取得できる制度です。

平成26年の会社法改正によって導入されました。会社法改正以前は、全部取得条項付種類株式を活用する事で、株式を取得していました。

しかしこれには、株主総会決議が必要になったり、複雑な手続きが必要なるため、スピードが求められるM&Aなどの場面には不都合がありました。

そのためこの株式等売渡請求制度が設けられ、株主総会決議が不要になり、これまでに比べて簡略化されたため素早く少数株主を排除する事ができます。

株式等売渡請求要件

株式等売渡請求を行使するには、以下の要件を満たす必要があります。

特別支配株主

特別支配株主は、対象となる会社の総株主の議決権の90%以上を保有する株主の事です。基本的にこの要件は、1人で要件を満たす必要があります。(会社法179条1項)

対象会社

株式等売渡請求の対象になる会社は公開会社と非公開会社どちらも対象となります。しかし清算株式会社と言われる、会社を消滅させる状態にある会社は、対象外となっています。

対象株式

株式等売渡請求を行う際は、特別支配株主が保有している以外のすべての株式を対象とする必要があります。

しかし、当該会社が保有している自己株式と特別支配株主完全子法人が所有する株式は、対象から除外されます。

株式等売渡請求によるスクイーズアウト

スクイーズアウトとは、株主から強制的に金銭を対価として株式を取得する方法をいいます。

他には「締め出し」や「キャッシュアウト」と呼ばれ、反対意見を持っている少数株主などから株主の地位を失わせるために行われます。

経営方針に反対する少数株主は、保有している株式を売却してくれる可能性が低いため、その様な状況で株式等売渡請求は有効です。

従来の方法より簡単に実行できるため、スクイーズアウトを検討している企業にはとても大きな恩恵がある制度になっています。

株式等売渡請求のメリット

株式等売渡請求のメリットは、いくつかあるので解説していきます。

経営者に経営権を集中させられる

株式等売渡請求の一番大きなメリットは、経営者に経営権を集められる点です。

事業継承を行う際に株主が親族などで分散してしまっていると、後継者に経営権を集めることができない可能性があります。

そのため意思決定に問題が起きない程度に、議決権株式を保有していれば問題は起きませんが、そうでなかった場合には意思決定に時間がかかってしまいます。

しかし、株式等売渡請求を行使することによって、強制的に経営権を集められます。また自社の経営の方針に反対しているような株主を強制的に排除できる点もメリットです。

M&Aにかかる期間を短縮できる

株式等売渡請求は、完全子会社化などによるM&Aでかかる期間を短縮できる点もメリットです。

完全子会社化を行う際に、全部取得条項付種類株式であったり株式交換を実施する場合は、株主総会決議の実施が必要になります。

しかし株式等売渡請求であれば、取締役会の決議のみで実行できます。また株式の端数処理なども発生しないため、かかる期間を大きく短縮可能です。

このようにスクイーズアウトを目的としたM&Aを短期間で実施できる点が大きなメリットになっています。しかし相続の際は、株主総会の特別決議が必要になるので注意しましょう。

新株予約権を強制的に取得できる

新株予約権を強制的に取得できる点がメリットです。

新株予約権を取得する方法は、株式等売渡請求しかないため、株式等売渡請求特有のメリットだと言えます。

新株予約権が残っている状態では、例え全株を取得したとしても完全子会社化できません。そのため新株予約権を発行している会社の場合は、株式等売渡請求以外に完全子会社化する方法はありません。

税負担が軽くなる

非上場企業の経営者が自社株を取得する場合は、みなし配当課税が生じてしまいます。

みなし配当課税は、所得に応じて最高で55%の課税が課されるため、自社株を取得する際に掛かる負担が大きいです。しかし、株式等売渡請求を活用して相続人などから取得した場合は、みなし配当ではなく譲渡所得に分類されます。

譲渡所得は所得に関係なく20.315%の課税になっているため、みなし配当課税と比べて軽い税負担で自社株の取得ができるようになります。

これは、非上場企業が事業継承をする際には、とても大きなメリットと言えるでしょう。

また譲渡所得の税率20.315%には復興特別所得税と言われる、東日本大震災からの復興施策に必要な財源の確保を目的とした、通常の所得税に上乗せして徴収される特別税が含まれています。

この徴収期間は2037年12月31日までです。

株式等売渡請求のデメリット

続いてデメリットについても解説していきます。

実行の要件が厳しい

株式等売渡請求を実施する際の一番のデメリットは実行の要件が厳しい点です。

これを実行するには、特別支配株主と言われる総議決権のうち90%以上の議決権を保有している必要があります。

そのため経営者が90%の議決権を保有できていなければ、そもそも実行できないという点がデメリットです。

税務的に非効率が生じる可能性がある

2つ目のデメリットは、株式等売渡請求実施の際に、税務的に効率が悪くなる可能性もある点です。

株式等売渡請求した後に株主として、残存させたい人物がいる場合は、全株式を取得したあとに株式を戻す必要があります。この場合は手間がかかるだけでなく、そのたびに課税されてしまいます。

株式等売渡請求の流れ

株式等売渡請求の流れは、以下の流れで進みます。

  1. 対象会社への通知
  2. 対象会社による承認
  3. 売渡株主等に対する通知
  4. 特別支配株主による売渡株式等の取得

上記の流れをそれぞれ解説していきます。

対象会社への通知

特別支配株主は、少数株主から「株式を取得する日付」「買付代金の金額」「買取代金支払のための資金確保方法」などを決める必要があります。

日付や金額が決まったら、会社に株式売渡請求の実施を通知します。またこのとき、一部の少数株主だけを対象とすることはできず、すべての少数株主を対象にしなければなりません。

株式の取得日も特別支配株主が決定できますが、その後の手続きで取得日の20日前以前に会社が少数株主に通知する必要があります。

そのためその日程を考慮して取得日を決めなければいけません。また買取代金についても公正である必要があり、その算定方法を会社に通知しなければなりません。

対象会社による承認

取締役会が設置されている会社では、取締役会の承認を得る必要があります。また取締役会が設置されていない会社は代表取締役の承認を得なければいけません。

この方法では、株主総会を開いたりすることなく、代表取締役などの承認だけで済むので手続きが簡単です。

ただこの際に会社は買い取り請求の内容が妥当であるかどうかを判断し承認した理由を書面に残し、会社に備え付ける必要があります。

売渡株主等に対する通知

会社は少数株主に対して、特別支配株主が決めた取得日の20日前までに、売渡請求がなされ会社が承認した事を通知します。

この際に、少数株主に対して、特別支配株主の「氏名」「住所」「買付金額」などを合わせて通知しなければいけません。

その後会社は、本社所在地に株式等売渡請求の内容に関して記載した書面を備え置かなければなりません。また少数株主から閲覧請求があった場合は、その内容を開示する必要があります。

特別支配株主による売渡株式等の取得

取得日が来た時点で、代金などの支払いを待たずに株式が移転します。

その後、特別支配株主から少数株主に代金の支払いが行われます。買取代金について不満がある少数株主は、裁判所に価格決定の申し立てを行う事も可能です。

しかし、株式の取得は取得日に発生しており、基本的には買取価格が変動するだけです。

また対象会社は、取得日後遅延なく株式等売渡請求によって特別支配株主が取得した売渡株式等の数や、取得に関する事項などが記載された書類を本社に備え付ける必要があります。

少数株主における対抗手段

少数株主が行える対抗手段は、裁判所に対して売買価格の決定の申し立てを行う事です。

他には当該売渡請求によって不当に不利益を被ることになったと主張して、裁判所に株式の取得そのものをやめるように請求する事が可能です。

少数株主が保全申し立てを行う際は、当該売渡請求は法令違反や手続きに違反があったことを訴える事になるでしょう。

また合理的な理由なく、承認された場合には、取締役に責任の追及を行う場合も考えられます。

所在不明株主から株式を取得する場合

所在不明株主の場合でも、強制的に株式を取得する事ができます。その場合の対価の支払いはその人物の住所地を管轄する法務局に供託する方法で行われます。

まとめ│株式等売渡請求にはリスクもある

ここまで株式等売渡請求について解説してきました。

特別支配株主が少数株主の株式を強制的に取得する事ができる制度です。株式等売渡請求を使うことにより、M&Aに掛かる時間を短縮したり、税負担を軽減したりすることができます。

しかし、90%以上の議決権を保有している必要があるという厳しい条件があります。

また株式等売渡請求は、強制的な手続きになっているため訴訟やトラブルに発展する可能性がある点には注意が必要です。

このようなリスクも存在するため、株式等売渡請求を進める際には専門家などに相談しながら進める事が一般的です。

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監修者情報

板井 理
板井 理

2018年度公認会計士試験に合格後、EY新日本有限責任監査法人札幌事務所に入社、その後3年間法定の会計監査業務に従事。
2022年に退職し、2023年に共同代表である笹本 拓実と株式会社PASONを設立。代表取締役に就任し、小規模M&Aに特化したマッチングプラットフォームサービス「PASON」を運営している。