医療法人における出資持分ありなしとは?メリット・デメリットと解散手続きについて解説!
最終更新日:2024-05-23医療法人とは、病院や医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所または介護老人保健施設を開設することを目的として、医療法の規定に基づいて設立される法人の事です。
その医療法人の中でも出資持分ありの医療法人と、出資持分のない医療法人の二種類が存在します。
この記事では、医療法人における出資持分ありなしの意味や解散手続き、メリット・デメリットなどを解説します。
目次
医療法人における持分とは
医療法人には、出資持分のある(持分あり医療法人)と出資持分のない(持分なし医療法人)の二種類が存在しています。
持分あり医療法人は2007年の4月に行われた第5次医療法改正以後は、新たに設立する事ができません。
今存在している持分あり医療法人はそれ以前に設立され、経過措置として存続している状態となっています。そのため経過措置型医療法人と呼ばれる事もあります。
持分あり医療法人は、作成した定款において出資に関係する規定が記載されているもので、設立した際に出資が行われている医療法人の事です。
一方で定款によって出資に関する規定が記載されていない場合は、持分なし医療法人となります。また持分は、財産権と言い換える事もできます。
基金拠出型医療法人
持分なし医療法人のうち、基金制度を採用している法人を基金拠出型医療法人と呼びます。
基金とは、医療法人に拠出された金銭などについて、医療法人と拠出者との間の合意の定めるところに従って返還義務を負うもののことです。現在、新たに設立される医療法人は基金拠出型医療法人です。
基金拠出型医療法人のメリットは、基金の価値が増えないことです。将来的に相続財産が増加することもなく医療法人を承継する際の予定が立てやすい点がメリットです。
持分なし医療法人への移行
経過措置型医療法人に対して、現在厚生労働省は持分なしの医療法人へと移行する計画を進めています。
この移行計画は、認定制度となっているため厚生労働省に対して移行計画申請が必要です。この制度の申請の受付締め切りは令和5年9月末となっています。
持分なし医療法人へ移行するメリットは、個人の持分に依存しないため、出資者の変更や退職、死亡による影響を受けにくい点です。そのため法人の存続がしやすく安定した経営がしやすくなります。
医療法人を解散する場合
医療法人を解散する場合について例をあげます。まず医療法人を院長が元手として2,000万円出資を行って設立した場合、医療法人を解散する際に持分のありとなしでのお金の分配について解説します。
持分ありの場合
仮に医療法人に2億円のお金がある状態で引退などによって解散した場合は、この2億円は設立した院長のものとなります。持分ありの医療法人の場合は、出資者に対して、その出資割合に応じた法人に残っている財産が戻ってくることになります。
持分なしの場合
また一方で、持分なしの医療法人で院長が2,000万円を出資して設立した場合では、医療法人を解散する際は法人に残っているお金は全部国のものです。
しかし基金拠出型医療法人であれば、設立時に拠出した金額については、返還を請求する事ができます。今回の場合であれば、院長は2,000万円を返還してもらえます。
持分なし医療法人は、拠出分以上の金額を返還してもらうことができないために、退職金などを活用して解散までに法人のお金を出しておくことが一般的です。
持分の買取請求
複数の医師が出資し開業して、医療法人を設立した後にそのうちの誰かが法人を離れる際の持分ありとなしの場合に分けて解説します。
持分ありの場合
2人の医師が出資を行って医療法人を設立したと仮定します。
その際に、2人はそれぞれ2,000万円出資して合計が4,000万円の資本金で運営し、その後に医療法人に4億円あるとします。
この条件で医師1人が法人を離れる際に出資分を請求した場合は、持分あり医療法人は元の出資分の割合に合わせてお金を支払う必要があるため、その医師に対して2億円の支払が必要です。
持分なしの場合
先ほどと同じ条件のままで、持分なしの場合は拠出した分のお金は支払わなければなりません(基金拠出型医療法人の場合)。そのため退職金などは支払いは必要になりますが、拠出されたお金以上のお金を支払う必要はありません。
相続の場合
医療法人化した医者が相続する場合についても、持分ありとなしの場合に分けて解説していきます。
持分ありの場合
医師が1,000万円で医療法人を設立し、経営していくなかで法人に5億円の財産が残ったとします。
この場合に子供に相続が発生した場合は、持分ありの医療法人であれば持分をそのまま相続できます。しかし、ここで問題となるのが多額の相続税です。
持分の評価額がそのまま5億円であれば相続税はおよそ2億2,900万円です。これは、非常に大きな金額なのでこの相続税をキャッシュで支払うのは容易ではありません。
そのため持分ありの場合では、相続のケースを想定して早めに後継者に資産を集中させることが必要です。
持分なしの場合
先ほどと同じ条件で持分なし医療法人の場合は、法人自体は相続の対象とならないため相続税もかかりません。しかし、基金拠出型医療法人の場合であれば、基金返還請求権を相続する事ができます。
医療法人の解散手続き
医療法人を解散させる場合の、手続きの流れを解説していきます。
- 法律上の解散事由を確認する
- 社員総会で決議を行う
法律上の解散事由を確認する
医療法第55条にも記載があるように、医療法人は、以下の事由などによって解散します。
- 定款をもって定めた解散事由の発生(定款にて「本法人の存続期間は設立から5年間とする」などと定めている場合)
- 目的たる業務の成功の不能
- 社員総会の決議(社団のみで原則として総社員の3/4以上の賛成を得る必要があります)
- 他の医療法人との合併
- 社員の欠亡
- 破産開始手続き開始の決定
- 設立認可の取消し(違法行為などによって行政からの設立認可取消し)
法律上では7つの事由が定められています。しかし実務上の手続きでは、「社員総会決議」によって進められる事が一般的です。
社員総会で決議を行う
医療法人の解散をするには、社員総会決議によって決定されます。
社員総会で決議する内容は破産手続きをするかどうかと、破産手続きをしない場合は清算人を決める事が主な内容です。債務超過を起こしている場合は、破産手続きを選択することが一般的です。
その場合には社員総会にて、裁判所に対して破産手続き申し立てを行う旨の決議を行います。
また債務超過以外の理由で解散する場合には、社員総会にて清算人を選ぶ必要があります。基本的に清算人は理事の中から選ぶことが多く、理事長が清算人になる事が一般的です。
社員総会決議と並行して必要な下準備
下記4つの医療法人の解散は最終的に社員総会での決議によって決められますが、それまでに下準備をする必要があります。
- 行政への認可、届出の準備
- 公告の準備、実施
- 債権者等の利害関係人への通知
- 解散決議の登記手続き
それぞれ解説します。
行政への認可と届出の準備
まず行政への認可、届出の準備は、「定款」もしくは「社員の欠乏」による場合に必要になり、行政への届出のみで解散手続きする事ができます。
しかし「目的たる業務の成功の不能」や「社員総会決議」による場合は、行政の許可が必要です。これは医療法人には公益性があると考えられているため、簡単に解散できないようにするためです。
これらを行う場合には、行政に解散認可を申請した後に、医療審議会によって審査を受ける必要があります。
そのため解散を検討している場合は、社員総会の前に、行政に対して解散について事前に相談しておくとスムーズに進められます。
公告の準備と実施
医療法では、社員総会にて解散決議をした場合、ただちに清算人が広告を行う必要があると定められています。この公告についても社員総会と同時に準備しておくとスムーズに進める事ができるでしょう。
また行政の認可が必要な解散事由の場合は、行政の認可を得た後に広告を行います。
債権者などの利害関係人への通知
社員総会にて解散の決議をした場合、直ちに清算人からそれぞれ各債権者などの利害関係人に対して通知を行い、債権届などの利害関係人に債権届などの手続きを催促する必要があります。
関係人の人数にもよりますが、通知にもある程度手間と時間がかかるため、通知を行う必要のある利害関係人をリストアップしておき事前に準備しておくとスムーズに進められるでしょう。
解散決議の登記手続き
社員総会によって解散決議を行った旨と清算人を誰にするかを法務省で登記しなければなりません。
また行政による認可が必要な解散事由のケースでは、行政から認可を得た後に登記を行います。解散決議が済み次第すぐに登記が行えるように準備をしておくとスムーズに進められるでしょう。
解散手続きに要する期間
社員総会によって解散の決議されたとしても、その時点で解散が完了するわけではありません。
清算手続きをする必要があるため、最低でも2ヶ月以上はかかることになります。これは債権届の届出期間や、債権者保護の措置を図る必要があるためです。
解散決議後の清算中にするべき事
解散が決まった場合、清算人は以下の4つの事をする必要があります。
- 現在業務の決了
- 債権債務を取りまとめる
- リース品や医療法人の財産ではないものを返却する
- 医療法人が所有している医療機器などの資産価値があるものの換価する
上記をそれぞれ解説していきます。
現在業務の決了
現在行っている業務を終了させ、残務処理を行います。現在通院している患者に対してほかの病院の紹介を行ったり、入院している患者に対しては転院を促すなどして、業務の終了を図ります。
債権債務を取りまとめる
それぞれの債権者から返送される債権届をもとにして負債の取りまとめを行います。また未払いの診療報酬などの債権については債権回収を行い換価します。
リース品や医療法人の財産ではないものを返却する
法人が所有しているわけではないリースの物件や機器などをリース会社に返還します。
医療法人が所有している医療機器などの資産価値があるものの換価する
医療法人が使用している医療機器は高価な場合が多く、病院の土地や建物などの資産についても売却して換価を行います。
持分あり医療法人の確認方法
持分あり医療法人なのかを確認する場合は定款の2か所を確認すると分かります。
- 出資の払戻しの部分に「社員資格を喪失した者は、その出資額に応じて払戻しを請求することができる」という記載がある
- 残余財産の部分に「本社団が解散した場合の残余財産は、払込済出資額に応じて分配するものとする」という記載がある
定款に上記の部分に記載があれば、持分あり医療法人と判別する事ができます。
持分あり医療法人のメリット・デメリット
M&Aなどによって出資持分を譲り受けると、その保有者が医療法人の社員であれば、払戻請求権が認められます。
そのため出資割合に応じて医療法人から払戻を受ける事ができる為資金を引き出す選択肢が一つ増える事がメリットです。
一方でデメリットは、出資持分を相続財産に含める必要があるため、相続税が高くなってしまうリスクがある点です。
持分なし医療法人のメリット・デメリット
持分なしの場合は、相続税対策をしなくていいという点がメリットです。理事に入っていれば役員報酬や退職金などによってある程度資金を引き出すこともできます。
しかし一方でデメリットは、退職金だけでは払いだせない金額の場合や、税制改正などによってルールが変わってしまう可能性がある点です。
まとめ│医療法人の持分とは医療法人の財産権をさす
ここまで、医療法人における持分について解説してきました。
医療法人の持分とは医療法人の財産権を指していて、持分あり医療法人は財産権のある医療法人、持分なし医療法人は、財産権のない医療法人と言い換えることもできます。
持分あり医療法人のメリットは、出資割合に応じて医療法人から払戻を受ける事ができる為、資金を引き出す事ができる点ですが、相続税に注意する必要があります。
持分なし医療法人のメリットは、相続税対策をしなくていい点ですが、退職金などによって払いだせない金額の場合や税制改正によってルールが変わる可能性がある点です。
また法改正により持分あり医療法人は新設することができなくなったため、これからは持分なし医療法人の割合が徐々に増加していくこととなるでしょう。
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