PASON
PASON
M&A 事例・コラム

事業譲受の意味とは?M&Aとの違いや流れ・メリットやデメリットについて解説!

最終更新日:2024-03-07
事業譲受 意味


事業譲受は、他の会社が行っている事業を買って引き継ぐ事です。株式譲渡や会社分割と違い特定の事業のみを引き継ぐ形になります。必要な事業のみを継承できますが契約などを再度個別にする必要があり、また手続きも煩雑と言えるでしょう。ここではそのメリットやデメリットや流れなどを解説していきます。

事業譲受とは

事業譲受とは、第三者が行っている事業を譲り受けることです。いくつかあるM&Aの手法の中の一つで、会社のすべてを継承する全部譲渡と会社の事業の一部を継承する一部譲渡の二種類があります。

事業譲受のメリット

事業譲受でM&A行うメリットを解説していきます。

簿外債務のリスクを避けられる

M&Aを行う際に簿外債務と言われる、帳簿には反映されていない債務を引き継いでしまう可能性があります。

例をあげると未払いの残業代や、退職給付引当金の計算ミス、また進行中の裁判や訴訟されるリスクなどが該当します。

事業譲受では、必要な事業や設備などの資産を選び継承するためこういったリスクを避ける事が出来る点がメリットです。

特定の事業だけを買い取れる

この方法では、自分が欲しい範囲の事業であったり必要な人材のみを継承ができるため、自分の事業とシナジーがある事業や人材、資産などを必要な部分のみを引き継ぐことができます。

節税できる

事業譲受では、のれんと言われる企業が持つブランド力や技術力にたいしての価値を指すものに相当する金額の償却や有形固定資産の減価償却を、損金として計上できるためその分の節税が可能になります。

事業譲受のデメリット

続いてデメリットについて解説していきます。

それぞれ個別に譲渡の手続きが必要

事業譲受の場合、それぞれ引き継ぐ従業員の雇用契約や賃貸借契約などありとあらゆる契約をしなおす必要があります。そのため関係各所への説明や承諾を得るのに時間や手間がかかります。これは従業員や資産、関係者が多ければ多いほどコストが必要になるでしょう。

許認可を取り直す必要がある 許認可などについては引き継ぐことができないため、再度申請して取得する必要があります。手続きや準備に不備があると許認可が下りない可能性があるため事前の調査や準備が大切です。

許認可を取り直す必要がある

許認可などについては引き継ぐことができないため、再度申請して取得する必要があります。手続きや準備に不備があると許認可が下りない可能性があるため事前の調査や準備が大切です。

取引先や従業員が引き継げない可能性がある

従業員や取引先などに説明しても同意が得られない場合、社員の流出や取引先が減る可能性があります。そのため社員の労働条件や給与など以前と条件が変わりすぎないように慎重に検討が必要です。

事業譲受に適したケース

ここでは事業譲受に向いている場合を解説していきます。

必要な事業を安く手に入れられる可能性がある

譲渡前の会社では、採算が取れなかった事業でも譲り受けた会社とシナジーがあるような場合は、事業譲受を検討する価値があります。

このような場合は、想定よりも安く譲渡してもらえる可能性があるでしょう。譲渡した側の企業も不採算の事業を手放し、調子がいい事業に更に投資することにより経営を立て直せる事があるため双方に利益があります。

後継者不足を解決する方法として

近年日本では、後継者不足に頭を悩ませている企業が多いです。優れたノウハウや技術を有しているのに後継者が見つからず、やむを得ずに廃業になってしまう企業は少なくありません。

そういった問題の解決方法に事業譲受というのも一つの選択肢になります。事業譲受を行うことにより、せっかく開発した優れた技術やノウハウなどが潰えてしまう事を防ぎ未来へつなげていく事ができます。

事業譲受の流れ

事業譲受を行う場合の流れを簡単に解説していきます。

一連の流れは下記の通りです。

  1. 事前準備
  2. 相手を探す
  3. 事業譲受契約の締結
  4. 臨時報告書の提出
  5. 公正取引委員会への届け出
  6. 財務局へ臨時報告書の提出
  7. 株主への通知及び公告
  8. 株主総会での特別決議で承認される
  9. 財産などの名義変更や許可手続き
  10. 事業譲受の効力発生

一つずつ、確認していきましょう。

  1. 事前準備

事業譲受を検討する。この段階ではどのような事業であれば、自社にとって利益が出るような事業かどうか、どれぐらいの予算か、規模や目的、条件といったものをある程度検討します。

  1. 相手を探す

事業譲渡先を探している相手を見つけるには、多くの場合はM&Aの専門家であるM&A仲介会社などを通じて探します。仲介会社は、M&Aを行いたい売手と買手のマッチングを行ってくれます。またM&Aに対する知識が豊富なため、譲渡金額や条件の妥当性など、不明な部分を相談できる点がメリットです。これらを通して相手が見つかった場合は、具体的な内容について条件面の交渉へ移ります。

  1. 事業譲渡契約の締結

交渉が終わり、具体的に取引する内容が決まった場合事業譲渡契約書を作成し合意が得られれば締結という流れです。この契約書では主に譲渡される資産の内容と金額、譲渡日、誓約事項、従業員の引継ぎ、合意管轄についてなどが記載されます。

また買手側は締結前にデューデリジェンスと言われる買収監査を行います。

このデューデリジェンスというのは、買手が買収予定の事業について、財務状況やその他の法的なリスクが存在していないか等を調べる行為です。

それによって判明した事業価値やリスクを鑑みて交渉が行われます。なお、事業譲渡契約書が締結される前に、買手側の取締役会での承認が必要です。デューデリジェンスについては、DD(デューデリジェンス)とは?意味や種類、実施するタイミングについて解説の記事で詳しく解説しています。

  1. 臨時報告書の提出

有価証券報告書の提出義務がある会社は、ある一定の要件に該当するような場合には、会社法で臨時報告書を内閣総理大臣に提出しなければなりません。以下に示す要件に該当した場合は届出をする必要があります。要件は以下の通りです。

  • 事業譲渡または譲受によって、資産額が最近事業年度の末日現在の純資産額よりも30%以上、増減する場合
  • 事業譲渡または譲受によって、売上高が最近事業年度の実績に対して10%以上、増減する場合
  1. 公正取引委員会への届け出

会社法により国内での売上高合計額が200億円を超える買い手は、一定の要件を超えた場合には、公正取引委員会への届け出が必要となります。要件は以下の通りです。

  • 国内売上高が30億円を超過する会社のすべての事業を譲受する場合
  • 譲受する事業における固定資産による国内売上高が30億円を超過する場合
  • 譲受する一部事業の国内売上高が30億円を超過場合
  1. 財務局へ臨時報告書の提出

会社にとても重要な影響を及ぼすような事柄がおきた場合には、財務局に臨時報告書を提出しなければいけません。定められた以上の規模を超える事業譲渡契約を締結したような場合はこれにあたります。また具体的な条件は以下の通りです。

  • 事業譲渡により直近の決算書の売上高と比較して10%以上増減する場合
  • 事業譲渡により直近の決算書の純資産額と比較して30%以上増減する場合

これらの条件のいずれかに該当する場合は買い手・売手ともに提出を行う必要があります。

  1. 株主への通知および公告

譲受会社と譲渡会社は、事業譲渡の効力が発生する20日前までに、事業譲渡実施の旨と、株主総会を開催する事を株主に対して官報や電子公告または個別に通知して周知を行います。

  1. 株主総会での特別決議で承認される

事業譲受を行う場合には、一定の場合を除いて、事業譲渡の効力発生の前日までに株主総会の特別決議で承認を得る必要があります。特別決議とは、議決権の過半数を持つ株主が出席し、なおかつその3分の2以上から賛成を得る必要があり、重要な議題などを決めるために行う決議です。

譲受会社で特別決議が必要な場合は、全事業を譲り受ける場合となっています。また特別決議が不要な場合は、簡易事業譲受の場合で、譲り受ける資産の帳簿価額が自社の総資産の20%を越えないケースです。

  1. 財産などの名義変更や許認可手続き

譲渡された資産や財産のうち、譲渡会社の名義になっている場合には、譲受会社の名義に変更する手続きを行わなければなりません。

また名義を変更する手続きを行うのは譲受会社になるため手続きに必要になる情報を提供してもらう必要があります。また許認可に関しても手続きが必要で、事業譲渡の場合は、許認可を引き継がないため、譲受会社が再度許認可を受ける必要があります。

  1. 事業譲渡の効力発生

事業譲渡契約書で定めた譲渡日を迎えると、事業譲渡の効力が発生して、権利義務に関係するものが移転します。この時点で法的な手続きは終わりますが、従業員の引継ぎや事業の引継ぎなどの作業が残っています。

その他M&A手法との違い

その他のM&A手法と事業譲受の違いを簡単に解説していきます。

株式譲渡との違い

株式譲渡との違いは、主に継承にかかる時間や手間です。事業譲受の場合では、事業に関わる契約先それぞれから同意を得なければいけません。その関係者の数に比例して手続きの手間が増加します。これに対して株式移転では、これに比べると手続きがシンプルです。

更に資産や契約も包括的に受け継ぐことができます。多くの場合は手続きが簡素な株式取引を用いる事が多いですが、株式譲渡で売ることが難しいような場合には、事業譲受を選ぶ事が多いです。

また、負債のほうが多いような会社の場合は、利益が上げられている事業のみを切り売りする場合が多く、このような場合は事業譲受が適していると言えるでしょう。

会社分割との違い

会社分割では、事業の一部もしくは全部を分割して、新規に設立した会社へ継承を行う「新設分割」と、すでにある会社へ事業を継承を行う「吸収分割」の2種類に分ける事が出来ます。こちらも包括的に継承することができ、契約なども引き継ぐことができます。事業譲受との違いは、会社法上の違いと言えるでしょう。

事業譲受では、取引法上の契約にあたりますが、会社分割では組織再編行為になり、この部分の差で法務や財務面での取り扱い方に差が出ます。そのため、その良し悪しで選ぶ事になるでしょう。

合併との違い

合併では、1つの会社がほかの会社を吸収する方法「吸収合併」と新設した会社に権利義務のすべてを継承する「新設合併」の2種類があります。合併では、売手の法人格が消滅する部分が一番大きな違いです。この手法の場合は、売手側の従業員を引き継ぐことができるため、従業員の雇用を守る事が出来ます。

またこの方法のデメリットはPMIと呼ばれるM&Aを行った後の統合過程に時間がかかる点があげられるでしょう。合併については、合併の意味とは?種類や手続き・メリットデメリットについて徹底解説!の記事で詳しく解説しています。

まとめ│事業譲受で更なる発展を

ここまで事業譲受について解説してきました。事業譲受は、その他のM&A手法に比べると手続きにややコストがかかりますが、必要な物のみを選択して継承することができます。ですがそれぞれ関係先から同意を得たり、従業員の同意が必要だったり、許認可を取り直したりする必要があります。

しかしこのような要素があったとしても、それ以上に欲しい事業を欲しい範囲のみ継承したり契約の自由度が高く、簿外債務のリスクが低いというメリットがあります。事業譲受は、行っている事業とシナジーを発揮して時に思いもよらぬ発展を遂げる可能性を秘めていると言えるでしょう。

監修者情報

笹本 拓実
笹本 拓実

2016年度公認会計士試験に合格後、EY新日本有限責任監査法人札幌事務所に入社、その後5年間法定の会計監査業務に従事。
2022年に退職し、株式会社Joblabにて管理部長に就任、コーポレート部門全般を管掌。2023年に共同代表である板井 理と株式会社PASONを設立。
代表取締役に就任し、小規模M&Aに特化したマッチングプラットフォームサービス「PASON」を運営している。