営業権の譲渡とは?メリット・デメリットや手順について解説!
最終更新日:2024-03-19経営者の中には、営業権の譲渡を検討している方も多いのではないでしょうか。
「会社を無くしたくはないけれど、このまま経営を続けていくのは難しい」「営業権譲渡を行って、資金調達を検討している」など、理由はさまざまです。
営業権の譲渡では、売り手側の企業・買い手側の企業それぞれに、メリットやデメリットがあります。また、税金も発生することとなりますので、事前に確認しておくべきことや準備することも多くなるでしょう。
そこで本記事では、営業権の譲渡とはどういった意味なのか?メリット・デメリットや注意点などについて詳しく解説していきます。
営業権の譲渡を検討中の方の参考になると幸いです。
目次
営業権の譲渡とは?
営業権の譲渡とは、どのようなことなのでしょうか。これは、会社内すべての事業、または一部の事業を売却(譲渡)することです。
「事業譲渡と同じ意味では?」と思った方も多いはず。営業権譲渡と事業譲渡は、2024年現在、同じ意味になっています。
2006年までは、異なる意味合いで使用されていたのも事実です。営業権譲渡には「商法」が適用されており、買い手は「個人」の場合を指していました。また、事業譲渡では「会社法」が適用され、買い手は「法人」だったのです。
2006年5月に、新会社法が改正されたことによって「営業権譲渡」が「事業譲渡」の呼称に変更されました。
「営業権」の定義とは?
そもそも、営業権という言葉の定義はどういったものなのでしょうか。
営業権とは、その企業におけるノウハウや知名度・ブランド力や将来性などの「無形(固定)資産」を表しています。
この「無形資産」を「のれん」と表現することも。この2つは、非常に似た意味を持つ言葉となっています。
しかし、本来「無形資産」と「のれん」は別物です。のれんはM&Aなどにおいて、企業の純資産と、実際に書いて側の企業が支払った金額の「差」を指しています。
M&Aの際に使用される「のれん」は、下記のような計算式で算出することが可能です。
M&Aの価格−純資産=のれん
その一方で、営業権のケースでは、次のような計算方法が使用されます。
純資産+営業権=M&Aの価格
同じような意味で使われる「無形資産」と「のれん」ですが、厳密な意味は異なることを覚えておきましょう。
営業権の譲渡における売り手側企業のメリット
営業権を譲渡することで、売り手側の企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。売り手のメリットは、大きく分けて下記の3つです。
- 売却益を得ることができる
- 必要のない事業だけを手放すことができる
- 会社の経営を続けることができる
- 赤字経営の場合でも比較的売却しやすい
順番に確認していきましょう。
売却益を得ることができる
売り手側のメリットひとつ目は、営業権を売却することによって、まとまった売却益を得ることができる点です。それを元手に、新たな事業に取り組むこともできます。
資金調達の方法に悩んでいる経営者の方にとっては、非常に大きなメリットとなるでしょう。
必要のない事業だけを手放すことができる
売り手企業側のメリットの2つ目は、必要のない事業や赤字の事業だけを手放すことができる点です。
さまざまな事業を行っている会社であれば「採算が合わない」「経営は続けていきたいけれど、赤字事業のみ切り離したい」というケースも多いかもしれません。
人件費や固定費の予算がオーバーしている事業や、赤字となっている事業のみを手放すことで、黒字に転換することも。自身で必要のない事業だけを選択して営業権を譲渡できるのは、大きな魅力です。
会社経営を続けることができる
メリットの3つ目は、会社を無くすことなく経営を続けることができる点です。
経営者の高齢化や少子化などによる後継者不在の問題などで、会社の経営続行を諦めてしまう方もいるかもしれません。
しかし、大切な会社をたたむ決心がつかなかったり、従業員の雇用問題も気掛かりです。
営業権を譲渡することによって、会社の存在は残り、従業員の雇用も守られます。
赤字経営の場合でも比較的売却しやすい
4つ目のメリットは、経営状況が思わしくないケースでも、比較的スムーズに売却できることが多い点です。
営業権の譲渡における売り手側企業のデメリット
営業権の譲渡によって得られるメリットはさまざまでしたが、売り手側の企業にデメリットはあるのでしょうか。
デメリットは大きく分けて、下記の3つが挙げられます。
- 従業員や関係者への説明が必要になる
- 譲渡益は課税対象となる
- 競業避止義務の制約を受けること
ひとつずつ確認していきましょう。
従業員や関係者への説明が必要になる
売り手側の最大のデメリットは、従業員や関係者に入念な説明が必要となる点です。営業権の譲渡によって事業部自体が無くなる場合には、異動や配置転換などの話し合いも行わなくてはなりません。
また、従業員はもちろん、すべての取引先や関係者に対しての説明も重要です。取引先への対応を蔑ろにしてしまうと、信頼度を大きく損なう可能性もありますので、注意しましょう。
譲渡益は課税対象となる
デメリットの2つ目は、譲渡益は課税対象となる点です。譲渡益には「法人税」が課せられることとなります。金額は「譲渡益に対して30%」程度となっていますので、事前に確認しておくことが大切です。
競業避止義務の制約を受けること
3つ目のデメリットは、競業避止義務の制約を受ける点です。そもそも「競業避止義務」とは、営業権を売却した後、20年間は同一地域・同一名義で同じような事業を行ってはいけないというもの。
近隣の市町村での事業も禁止されています。営業権を売却する理由が、新たに同一の事業を立ち上げるという場合は、十分に気をつけなければならないポイントです。
営業権の譲渡における買い手側企業のメリット
ここからは、買い手側の企業におけるメリットについて解説していきます。営業権の譲渡で期待できるメリットは、下記の3点です。
- 必要な事業のみ買い取ることができる
- 新規事業への参入がスムーズになる
- 節税効果に期待が持てる
順番に見ていきましょう。
必要な事業のみ買い取ることができる
買い手側企業のメリット1つ目は、必要のある事業だけを買い取ることができることです。新たに参入したい分野があったり、新商品の開発などを検討している際に、必要となる事業のみを買い取れることは大きなメリットと言えます。
会社全体を買い取るためには、大きな費用が必要となりますが、一部の事業のみ買い取ることはリスクを抑えることにもつながるでしょう。
新規事業への参入がスムーズになる
メリット2つ目は、新規事業への参入がスムーズになることです。今までチャレンジしてこなかった分野に挑戦するときには、多くの時間とコストが必要となります。
ゼロからのスタートとなるため、収益化するまでには、年単位のスケジュールを立てることになるでしょう。
しかし、営業権の譲渡で必要な事業の買い取りに成功すれば、さまざまな手間を省くことができます。許認可の取得はもちろん、人材やノウハウも揃った状態でスムーズに参入できるのです。収益化もスピーディーに行える点は、大きなメリットと言えるでしょう。
節税効果に期待が持てる
3つ目のメリットは、節税効果にも期待が持てる点です。営業権の譲渡によってかかった費用については「のれん償却」で「損金として計上」することができます。損金計上することで、節税効果を発揮することになるでしょう。
営業権の譲渡における買い手側企業のデメリット
続いて、買い手側企業のデメリットを確認していきます。デメリットは、大きく分けて次の4つです。
- まとまった費用が必要となる
- 従業員や取引先の引き継ぎ
- 契約内容などの確認・変更手続き
- 買い取った事業が成功するとは限らない
ひとつずつ解説していきます。
まとまった費用が必要となる
デメリットの1つ目は、事業を買い取ることによって発生する費用を調達しなければならない点です。会社全体を買収する際と比較すると費用を抑えられますが、対象事業の価値が高ければ高いほど、まとまった費用が必要となります。
資金に大きな余裕があれば問題ありませんが、多くの場合は、資金調達が必須となってしまうでしょう。
従業員や取引先の引き継ぎ
デメリットの2つ目は、従業員や取引の引き継ぎに手間がかかる点です。譲渡の際に契約書が交わされることとなり、そこに記載された内容に従わなければなりません。時間がかかるだけでなく、コスト面でも負担になるケースもありますので、事前に準備が必要です。
契約内容などの確認・変更手続き
契約内容の確認や変更手続きも、買い手側企業のデメリットとしてあげられます。営業権の譲渡では、交わされる書類などが多く、契約内容の変更や登記変更などの処理に追われる可能性が高くなるのが現状です。
買い取った事業が成功するとは限らない
4つ目のデメリットは、どれほど利益が出ている事業を買い取った場合でも、成功するとは限らないことです。取引先との関係が悪化するケースや、経営方針の変更で顧客が離れてしまうことも。経営者の力量によって、それまで軌道に乗っていた事業が傾くこともあるため、注意しなければなりません。
営業権を譲渡する手順
営業権を譲渡するまでには、いくつかの段階を踏む必要があります。手順は、下記の通りです。
- M&A仲介業者への依頼
- 買い手を選定する
- 売り手を査定する(DDの実施)
- 条件および価格の交渉を行う
- 株主総会での承認を得る
- 営業権譲渡の手続きを行う
まずは「買い手」を見つけるために、M&A仲介業者に依頼を行うのがおすすめです。仲介業者に依頼することによって、さまざまなメリットがあります。自社が希望している相手を見つけやすくなるだけでなく、適切な売却額を提示してもらえたり、全面的なサポートをしてもらうことが可能です。
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次に、買い手の選定です。専任スタッフと話し合いを進めながら、安心して譲渡できる健全な企業を見極めて、買い手企業を決定しましょう。
続いて、買い手側の企業が、買収先の企業についての調査を行います。これがDD(デューデリジェンス)です。DDについては、DD(デューデリジェンス)とは?意味や種類、実施するタイミングについて解説!の記事で詳しく説明しています。気になった方は、ぜひチェックしてみてください。
DDの結果を踏まえ、最終的な価格に関する交渉や条件の確認が行われます。双方が合意した場合には、契約書が締結されることとなるのです。
その後、営業権譲渡契約書を基として、株主総会による承諾を得ることとなります。このとき、出席した株主の3分の2以上の賛成が必要となりますので、事前準備が大切です。
最後に、契約書に記載された日程で「営業権の譲渡」が行われ、すべての手続きが完了となります。
営業権の譲渡によって発生する税金とは?
営業権の譲渡では、売り手側の企業・買い手側の企業それぞれに税金がかかります。まず、売り手側の企業では、事業の売却益に関して「法人税」が課せられます。
また、個人事業主が売り手だった場合には「所得税」が発生することとなるのです。どちらのケースでも、消費税を加算して計算しておくようにしましょう。
買い手側の企業で発生する税金は、買い取った事業によって異なりますが「登録免許税」や「不動産所得税」などがあります。売り手側の企業と同様に、消費税を加算して計算しておくことが大切です。
まとめ|営業権の譲渡はM&A手法のひとつ!信頼できる専門家に依頼しよう
本記事では、営業権の譲渡とはどのようなことなのか?売り手側・買い手側それぞれのメリットやデメリット、譲渡までの手順について詳しく解説してきました。
売り手にとっては、必要のない事業だけを手放すことができたり資金調達ができるなどのメリットがありましたね。その一方で、従業員や関係者への説明に時間がかかる点や競業禁止義務の制約を受けるというデメリットを意識しなければなりません。
また、買い手側の企業は、新規事業にスムーズな参入ができたり節税効果に期待が持てるメリットがあります。デメリットには、手続きが多い点やまとまった資金が必要になることが挙げられるでしょう。
営業権の譲渡に関するメリットだけでなくデメリットも十分に理解した上で、計画を進めることがおすすめです。
最後までお読みいただきありがとうございました。以上、参考になると幸いです。