譲渡制限株式とは?メリット・デメリットや付与する手順などを解説!
最終更新日:2024-04-03譲渡制限株式は、会社法によって定められている方式の株式です。譲渡する際にいくつかの制限がかけられている株式の事です。
多くの中小企業では、会社の乗っ取りや会社に不都合な人物に株式が渡ってしまうのを防ぐために譲渡制限株式が活用されています。
この記事では譲渡制限株式についてやメリットデメリット、譲渡制限株式を付与する手順を解説します。
目次
譲渡制限株式とは
譲渡制限株式とは、譲渡を行う際に制限がある株式の事です。これは株式の譲渡を行う際に、その会社の承認が必要となるものです。
これを発行する目的は主にスタートアップや中小企業などにおいて会社の乗っ取りまたは会社にとって望ましくない人に株式が渡ってしまう事を防ぐなどの場合が多くなっています。
譲渡制限株式のメリット
譲渡制限株式を発行するメリットはいくつかあり、ここではメリットをそれぞれ解説していきます。
自由に譲渡出来なくなる
基本的に株式は、会社法127条により譲渡自由の原則が定められています。
これが設けられた理由は、主に投下した資本の回収を行う方法が、剰余金の配当や解散時の財産の分配を除くと株式譲渡するしか方法が存在しないためです。
この原則では、株主は保有している株式を自由に譲渡を行う事が認められています。しかし、これには例外があり、それが定款による譲渡制限です。
これは株式に対して譲渡制限を付与する内容を定款に盛り込む事で譲渡の制限が出来る所がメリットです。(会社法107条1項1号・108条1項4号)
そしてこのような株式を譲渡制限株式と呼びます。
不都合な人物に株式が渡るのを防ぐ
これは主にスタートアップ企業や中小企業などで、会社に関係しないもしくは対立関係にあるような人物が株主になってしまった場合に経営が困難になるリスクが高いです。
譲渡制限株式を活用する事で、株主総会や取引総会などの承認を得ないとその他の人物に株式を譲渡できなくなります。
それにより会社に都合の悪い人物が経営に加わる状態を防ぐ事ができる点がメリットです。
優秀な従業員の流出を防げる
譲渡制限株式では、役員や従業員の勤続年数を制限解除の条件にできます。
このように活用することで優秀な従業員の退職をその数年間は防げる可能性が高まる点がメリットです。
しかしこれは中途退職した場合は、株式が没収されるだけで、100%退職を防げる手段ではない点には注意が必要です。
譲渡制限株式のデメリット
続いて譲渡制限株式のデメリットをそれぞれ解説していきます。
会社設立後の導入が大変
譲渡制限株式を導入する場合は、会社設立時に行うのが一番簡単です。設立時であれば、定款作成時に譲渡制限株式の定めを記載すれば終わります。
しかし設立後にこれを導入しようとすると株主総会の特別決議などが必要になるため、導入に手間がかかってしまう点がデメリットです。
そのため会社を設立した後から導入をする場合は、導入の手続きを問題なく行えるかが大切なポイントとなっています。
会社乗っ取りの可能性がある
譲渡制限株式は、簡単に株式を取引できなくなるため会社に不都合な自分が株式を保有したり、株式の買占めによる乗っ取りのリスクを低下させられます。
しかし、従業員や役員などに譲渡制限株式を付与すると、それによって会社乗っ取りのリスクが生まれるケースがあります。
このケースは、株式買取請求権を行使され価格交渉が決裂して、他の株主が介入する場合です。
譲渡制限株式を付与する手順
譲渡制限株式を付与する場合はいくつか手順を踏む必要があります。
- 金銭報酬債権支給
- 払込(現物支給)
- 株式交付(譲渡制限の設定)
- 譲渡制限解除
- 譲渡制限が解除されなかった株式
➀│金銭報酬債権支給
まず最初に行うのは金銭報酬債権の支給です。
譲渡制限株式を報酬として付与するには、報酬を受け取る従業員や役員が現物出資して、その代わりに譲渡制限株式を交付するという形をとる必要があります。
➁│払込(現物支給)
役員や従業員が金銭報酬債権を会社に現物出資として払込します。
これは現物出資となるため金銭の支払いが発生しないのが特徴です。
➂│株式交付(譲渡制限の設定)
役員や従業員に対して譲渡制限株式の交付を行います。
この段階では、譲渡制限が掛かっているため承認なく売却して金銭を得る事はできない状態です。
④│譲渡制限解除
従業員または役員が決められた期間に役務を遂行して、譲渡制限を解除する条件を満たした場合、そのタイミングで譲渡制限が解除されます。
多くの場合解除の条件は、一定期間の勤務となる事が一般的です。5年間勤務と定められていた場合、勤務して5年後に譲渡制限が解除される事となります。
また勤務期間以外の条件は、一定の業績を上げるなどです。この業績により譲渡制限が解除される株式を「業績連動型株式」と呼びます。
⑤│譲渡制限が解除されなかった株式
解除条件を満たさないケースでは、譲渡制限は解除されずにその株式を会社が無償で取得して没収されます。
途中で退職を行った場合は、勤務していた分については制限を解除できます。このようにこの株式は、条件を解除するまで報酬をもらえません。
そのため報酬全体に占める譲渡制限株式の割合が高いと報酬が少なくなってしまうような場合があります。
そのためこれを活用する場合は、そのほかの報酬やインセンティブなども合わせて考える事が大切です。
譲渡制限株式によって変わる会社の呼び方
譲渡制限株式の定めの有無によって、会社の呼び方が変わります。それが公開会社と非公開会社です。
公開会社
定款に株式の譲渡制限がない株式会社を公開会社(英語名:Publicly Listed Company)と言います。
また上場会社の株式は、株式市場によって自由に取引ができ譲渡制限がありません。
そのため上場会社は公開会社と言えます。
しかし反対に公開会社はすべて上場会社とは限らない点には注意が必要です。譲渡制限を設けていない株式を発行している非上場企業は、公開会社といえますが、上場会社ではありません。
非公開会社(株式譲渡制限会社)
これから発行を行う株式すべてを譲渡する場合に、会社の承認が必要とする旨を定款に定めて言える会社を株式譲渡制限会社(英語名:A Company Subject to Restrictions on Transferability)と言います。
種類株式と言われる普通株式とは権利の内容が異なる株式を活用して株式の一部のみ譲渡制限をかけて言えるような場合は、株式譲渡制限会社ではなく、公開会社として扱われます。
また会社の承認は、基本的に取締役会や株主総会での承認の事を指しますが、別の方法を定款によって定める事も可能です。
しかし株式の譲渡制限の定めを定款にするのには、株主総会の特殊決議が必要になる事には、注意が必要です。
株式譲渡制限会社は意図しない人物が経営に入ってしまう事を防ぎやすく、経営権を確立させるのにとても有効な手段となっています。
譲渡承認無しに譲渡する場合
譲渡承認を受けずに譲渡制限株式を譲渡する場合は、譲渡自体は可能となっています。
しかし株主名簿の名義の書換請求を行い、承認を受けられるまでは会社に対して権利を行使する事ができません。
また承認を受けずに株式の譲渡を受けた株式取得者から、会社に対して株式を取得した事を承認するかの承認請求を行う事が出来ます。
株式取得者が譲渡承認請求を行う場合は、基本的に取得した株主として記載された人かまたは、相続人か一般継承人と共同している必要があります。
これは勝手に株を譲渡されたとして会社に請求される事を防ぐためです。
しかし会社法施行規則第24条に記載されているとおり、競売経由で株を取得したり株式取得者を株主とする確定判決などがある場合には、株式取得者が単独で会社に譲渡承認の請求が可能です。
譲渡制限株式の売渡請求について
会社は株主総会の特別決議によって売渡請求をする株式を有する相続人を定めた場合は、当該相続人などに対して会社がその相続やその一般継承があった事を知った日から1年以内の間は、売渡請求が可能で株式を会社に売り渡す事を請求できます。(会社法176条1項)
また売渡請求の場合は、その請求の対象になる株式の数を明らかにしてはいけないという決まりがあります。(会社法176条2項)
また会社は定款の定めに基づいて相続人に対して売渡請求を行う場合は、そのたびに株主総会の特別決議により次の2つの事項を定める必要があります。
- 売却請求する株式の数(種類株を発行している場合は、株式の種類と種類ごとの数量)
- 売却請求する株式の保有する者の氏名や名称
上記の事項を定めて請求を行います。
譲渡制限株式とストックオプションの違い
譲渡制限株式と似ている点があり混同されやすいものでストックオプションが存在します。ストックオプションは株式を付与する際に権利行使株価を設定します。
そして、その権利を行使時の株価との差額が報酬になるという値上がり型の報酬形態です。
権利を付与された役員や従業員は、権利行使をして現金を支払うまでは株式を所有できません。
一方で譲渡制限株式では、最初に金銭債権が支給されて、それを使って現物出資を行う事で会社から譲渡制限株式を得る事になります。
またストックオプションでは、市場価格が行使価格を下回っていると権利の行使の価値が失われてしまう可能性があります。
それに対し、譲渡制限株式の場合は市場価格が行使価格を下回ったとしても無償取得や少額の費用で株式の取得が可能です。
まとめ│譲渡制限株式は会社の経営権を守る
ここまで譲渡制限株式について解説してきました。
譲渡制限株式は会社にとって不都合な人物に株式が渡るのを防いだり、会社にとって良い体制作りに役立ったり、優秀な従業員を繋ぎとめられるといった恩恵があります。
しかし導入や譲渡する際に手続きが煩雑というデメリットもあります。
そのため譲渡制限株式を導入する場合は、メリット・デメリットをしっかり把握して検討する事が大切です。