経営承継円滑化法とは?事業承継税制や金融支援・民法特例などについて解説!
最終更新日:2024-03-30経営承継円滑化法は、日本経済を支える中小企業の事業承継を支援するために創設された法律です。
これにより税制や金融支援などの優遇措置の充実が図られています。これは主に3つの支援措置を柱として支援を行います。この記事では経営承継円滑化法の3つの支援措置の柱をそれぞれ詳しく解説していきます。
目次
経営承継円滑化法とは
経営承継円滑化法は、中小企業が事業継承を円滑に行うことを支援するための基礎的な法律として2008年に施行されました。
正しい名称は「中⼩企業における経営の承継の円滑化に関する法律」です。多くの場合中小企業は、株主が経営者本人であることが多く、経営者の個人資産についても自己株式の占める割合が大きくなりがちです。
そのために後継者に事業を承継した際に、贈与税や相続税、民法上の遺留分などの制約で引き継ぐ資産が減ってしまう場合が少なくありません。
このような状態では、承継後の経営不安や継承に必要な資金調達の困難さなどの問題があります。この問題を解消するために経営承継円滑化法が制定されました。
これは主に以下の3つの支援措置を柱としています。
- 事業承継税制
- 金融支援
- 民法の特例
また2018年に経営継承円滑化法の改正が行われました。
経営承継円滑化法➀│事業承継税制
事業承継税制とは、事業継承する際にかかる税の負担を軽減するための特例措置です。
個人の場合と法人の場合の制度があります。個人事業主の場合は個人の事業資産にかかる贈与税や相続税の納税猶予もしくは免除される制度です。
法人の場合は非上場株式等にかかる贈与税や相続税の納税猶予もしくは免除される制度です。事業承継税制の適用には、いくつか条件がありますが、後継者が非上場会社の株式や事業用資産を先代から贈与または相続によって取得した場合に、贈与税や相続税の納税猶予または免除を受ける事ができます。
2018年の改正でこれまでの一般措置に加えて更に、特例措置が設けられました。これは特例承継計画の提出が必要になりますが、対象株式の制限緩和や納税猶予の割合などの引き上げといった特別措置を受ける事ができます。事業承継税制について詳しく知りたい方は、こちらの記事で詳しく解説しています。
また事業承継税制について知りたい方は、別記事の事業承継税制とは?事業承継や贈与税・相続税の仕組みとメリット・デメリットを解説!にて解説しています。
経営承継円滑化法➁│金融支援
事業承継を行う際に様々な資金が必要です。経営継承円滑化法では、都道府県知事の認定を受ける必要がありますが、信用保証による支援と融資による支援を受ける事ができます。
まず信用保証による支援は、経営承継円滑化法に基づく認定を受けると、金融機関などから資金を借り入れる場合に信用保証会社の保障枠に通常の保証枠とは別の枠が用意され更に借り入れることが可能です。
具体的には、通常枠の普通保険2億円に別枠で更に2億円追加される事になります。続いて融資による支援は、経営承継円滑化法に基づく認定を受けると日本政策金融公庫又は沖縄振興開発金融公庫の融資制度が利用できます。
経営承継円滑化法③│遺留分に関する民法の特例
遺留分とは、一定の相続人に対して遺言によっても奪う事ができない遺産の一定割合の留保分の事です。ここでは後継者に集中して自社株式や事業資産などを承継してしまうと、他の相続人の遺留分を侵害してしまい、遺留分侵害額の請求を受けると自社株式や事業用資産が分散してしまいます。
そうなってしまうと事業承継という観点で言えば大きなマイナスとなってしまうため、これを防ぐために遺留分に関する民法特例が定められました。
これにより後継者が、遺留分の権利者全員から合意を得て手続きする事により、遺留分に関する特例措置を受ける事ができます。具体的に受けられる措置は以下の2つです。
- 除外合意 – 生前贈与株式や事業資産の価額を除外
- 固定合意 – 生前贈与株式の評価額をあらかじめ固定
このような特例を活用することで相続で争いになる事を防いだり、自社株式や事業資産を安心して集中させる事ができます。
また遺留分に関する民法の特例について知りたい方は、別記事の事業承継における遺留分とは?民法特例の適用条件や適用する手順を解説!にて解説しています。
経営承継円滑化法の改正について
日本は総企業の99.7%が中小企業となっています。しかし高齢化や後継者不足問題により廃業せざるおえなくなってしまう企業も多くあり、このまま進行すると半数の企業が後継者不在になってしまうと言われています。
そのため経営承継円滑化法を定め、少しでも中小企業が円滑に事業承継を行えるようにしました。ですが手続きが煩雑で税制猶予制度が煩雑なために活用している企業は多くありませんでした。
そのため、2018年に経営承継円滑化法の再改正が行われました。事業承継税制では、特例措置が創設されて更に後継者にかかる税負担は減少することになるため、制度を利用し事業継承を行う中小企業の利用率向上が期待されます。
事業承継税制について
経営承継円滑化法の一つである、事業承継税制を活用すると贈与税や相続税の納税が猶予や免除されるため借り入れや株式の売却する必要がなくなります。しかしこの事業承継税制を適用するには以下の要件があります。
- 先代経営者
- 会社の代表者であった
- 相続開始または贈与の直前に総議決権数の過半数を保有しており、筆頭株主であった
- 贈与時に代表者を退任している(贈与時)
- 後継者
- 相続開始または贈与時、後継者と後継者親族などで総議決権数の過半数を保有する
- 後継者が1人の場合、最も多くの議決権数を保有する。後継者が2~3人の場合は総議決権数の10%以上の議決権数を保有し後継者と特別の関係がある者の中で最も多くの議決権数を保有する
- 贈与時に20歳以上で、贈与の直前に3年以上役員で代表である(贈与時)
- 相続開始の直後に役員で、相続開始から5か月後に代表である(相続時)
- 会社
- 中小企業
- 従業員が1人以上
- 上場企業または風俗営業会社ではない
- 資産管理会社などに該当しない
事業承継税制の要件は上記のとおりです。
事業承継税制の適用後
事業継承税制の適用を受けた後も一定の要件を満たす必要があります。要件は開始から5年間とそれ以降で変わります。要件は以下の通りです。
- 開始から5年間
- 後継者が会社の代表者で筆頭株主である
- 雇用の8割以上を5年間平均で維持する
- 後継者が猶予対象株式を継続保有している
- 開始から5年後
後継者が猶予対象株式を継続保有している
上記の要件になっています。また特例措置を受けていて雇用を維持できないようなケースでは、認定支援機関の指導や助言を受けてその意見が記載された報告書を提出できれば納税猶予は継続されることになります。
事業承継税制を利用する手続き
事業承継税制の手続きの流れは以下の通りです。
- 特例措置を活用する場合は、特例承認計画を都道府県庁に提出する
- 相続を開始してから8か月目までに都道府県庁に事業承継税制の申請する
- 審査を受けて認定されると、都道府県から認定書が交付される
- 認定書の写しを添付し申告書を税務署に提出する
- 納税猶予税額及び利子税の額に見合った担保を提供して、税務署に申告する
上記の手続きにより納税猶予期間が始まります。また納税猶予が開始したあとも定期的に手続きが必要です。
納税猶予期間開始から5年間は、道府県庁に年次報告書、税務署に継続届出書を年1回提出が必要です。また5年経過後は税務署に継続届出書の提出が必要となります。
金融支援について
中小企業の事業承継を行う場合は、色々な資金が必要になります。親族内承継を行う際には主に以下の3つの資金が必要になります。
- 買取資金
自社株式や事業用資産の買取に必要な資金
- 納税資金
相続を行う時に自社株式や事業資産にかかる相続税を納めるために必要な資金
- 運転資金
経営者交代など信用低下にって起こる支払期間の短縮や、借入を行う際に金利などの悪化に備える資金
上記の三種類です。金融支援では、これらの資金の種類と支援の対象によって融資を受けたり信用保証の枠が増加したりします。
支援の形態
資金の用途と支援の対象者によって受けられる支援が、融資か信用保証か変わってきます。支援の形態は以下の通りです。
- 経営を承継した後に必要になる資金
これは主に後継者が自社株式や事業用資産を買い取るための資金です。または、後継者が相続や贈与によって資産を取得した時の相続税や贈与税の納税資金などです。
まず中小企業者が対象の場合は信用保証を受ける事ができます。次に中小企業の代表者(会社)が対象の場合は、融資と信用保証を受ける事ができます。
- これから他の中小企業者の経営を承継するのに必要となる資金
M&Aを予定していて他社の株式や事業用資産を買い取るための資金などが該当します。まず中小企業者の場合は信用保証を受ける事ができます。次に事業を営んでいない個人の場合は、融資と信用保証を受けることができます。
- 認定日から経営の承継日までの間に、現経営者の保証がなされている借入を借り換えるための資金
これは借り換えを行うための資金です。中小企業者(会社)が対象の場合は、信用保証を受ける事ができます。
上記の資金について、融資や信用保証を受けることができます。
遺留分に関する民法特例について
事業継承をする際には後継者に自社株や事業資産を集中して引き継ぐことが理想なのですが、ここで問題になるのが遺留分です。
集中して引き継いだ資産が他人の遺留分を侵害してしまい、遺留分侵害額の請求権を行使されれば自社株や事業資産が分散してしまいます。
そのため株式の価格を合意時点で固定する固定合意や、遺留分から自社株を除外する除外合意を活用することで相続時に紛争になるのを防ぐ事ができます。また遺留分に関する民法特例を適用するためには以下の要件があります。
- 先代経営者
過去または合意時点において会社の代表者であること
- 後継者
- 合意の時点において会社の代表者であること
- 現経営者から贈与などにより株式を取得したことで、会社の議決権の過半数を保有していること
- 会社
- 中小企業者であること
- 合意時点において3年以上継続して事業を行っている非上場企業であること
上記の要件を満たす必要があります。
遺留分に関する民法特を利用する手続き
遺留分に関する民法特例を適用するには大きく分けて以下の3つのステップがあります。
- 合意書を作成する
遺留分を有している推定相続人全員と後継者の合意を得て合意書を作成する
- 遺留分に関する民法の特例に係る確認申請書を提出する
合意を行った1ヶ月以内に必要書類を添付し、遺留分に関する民法の特例に係る確認申請書を経済産業省中小企業庁事業環境部財務課に提出します。
添付する必要がある書類は、個人の場合と会社経営者の場合で変わります。
- 家庭裁判所の許可を受ける
経済産業大臣の確認書の交付を受け、後継者は1ヶ月以内に家庭裁判所に申立書と必要書類を添付して提出します。その後家庭裁判所の認可を受けられれば合意の効力が発生します。
上記のステップを踏む事で民法特例を適用する事ができます。
まとめ│経営承継円滑化法は中小企業の事業活動の継続を後押しする
ここまで経営承継円滑化法について解説してきました。
経営承継円滑化法は「事業承継税制」「金融支援」「遺留分に関する民法の特例」の三本の柱を元に中小企業の事業承継を円滑に行えるようにするものです。
事業継承税制を利用すれば事業用資産や自社株式の贈与税・相続税の納税猶予や免除が受けられます。次に金融支援を受ける場合は、事業承継に必要になる資金について融資制度を利用できたり借入の際に追加の保証枠を利用できたりします。
最後に遺留分に関する民法特例では、株式の評価額を合意時点で固定する固定合意や株式と事業資産の価額を除外する除外合意等を行う事ができます。
これにより相続トラブルになる事を避けることができるでしょう。経営承継円滑化法では、様々な方法で中小企業の事業継承を支援しています。
このような支援により事業継承を円滑に進められるようになるため、事業活動の継続を後押ししています。
そのためこの法律は、地域経済と雇用を支える中小企業の事業活動の継続を促すことに繋がっています。