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M&A 事例・コラム

M&Aで生じる税金とは?事業譲渡と株式譲渡の差や確定申告のタイミングを解説!

最終更新日:2024-03-30
M&A 確定申告

M&Aや事業継承を行う際には、基本的に事業や株を売却することとなり所得が発生するため、売手に税金が発生し、支払う義務が生じます。

しかし、この税金の計算方法は、個人の場合、法人の場合でも変わるのです。

この記事では、「個人の場合」「法人の場合」「事業譲渡の場合」「株式譲渡の場合」などの税金について、東京都を例に税金対策の方法や確定申告の時期などについても解説していきます。(令和6年2月27日時点の情報です。)

税金についての基礎知識

M&Aで発生する税金の種類は、個人か法人かによって変わります。ここでは、それぞれの場合にわけて解説していきます。

個人の場合の所得と税金

個人の場合は所得税が課されます。また所得は10種類に分類されています。分類は以下の通りです。

  1. 利子所得
  2. 配当所得
  3. 不動産所得
  4. 事業所得
  5. 給与所得
  6. 退職所得
  7. 山林所得
  8. 譲渡所得
  9. 一時所得
  10. 雑所得

上記の10種類です。またこの中でも、二種類の課税方法があります。それぞれ所得を合算した金額に対して所得税率を乗じて所得税額を求める総合課税とそれぞれ所得毎に分けて、所得税率を乗じて所得税額を求める分離課税があります。以下がその分類です。

総合課税

  • 不動産所得
  • 事業所得
  • 給与所得
  • 譲渡所得(ゴルフ会員権等)
  • 一時所得・雑所得

分離課税

  • 利子所得
  • 退職所得
  • 山林所得
  • 譲渡所得(有価証券,土地建物等)

上記のように分類されます。

法人の場合の所得と税金

法人の所得は、個人とは違い分類されていません。法人の場合は、法人税が課される事となります。法人税を求めるために必要な所得は、会計上の税引後当期純利益を元にして、税務調整と言われる会計上の費用・収益を税務上の損金・益金に調整して所得金額を求めていきます。

法人税は、法人の所得に対して、法人税率を乗じて求められ、法人の所得に対しては、法人税(地方法人税を含む)と法人住民税(都道府県民税・市町村民税)の法人税割または法人事業税の所得割(地方法人特別税を含む)などの税金が発生します。

また法定実効税率と呼ばれている、法人の所得金額に対して合計で何%の税額がかかるかは、M&Aを検討する際に作成する事業計画書や企業評価に必要な情報となっています。

M&Aで発生する税金

M&Aをする際に発生する税金は個人か法人か、事業譲渡か株式譲渡かで変わってきます。ここではそれぞれ解説していきます。

事業譲渡で発生する税金

個人の場合と法人の場合によって異なるためここでそれぞれ解説していきます。主にここで発生する税金は以下の4種類です。

➀所得税

所得税は累進課税と言われる所得に応じて税額が5%〜45%の間で変動します。

➁消費税

課税資産 x 10% 

③登録免許税・不動産取得税(不動産譲渡が含まれる場合)

土地の価格 x 1.5% = 登録免許税(土地)

不動産の価格 x 3% = 不動産取得税

④法人税等

譲渡価格 – (譲渡資産 – 譲渡負債) = 譲渡益の金額

(譲渡益 + 本業の利益) x 29.74%(外形標準適用法人の場合) = 法人税等

上記の4種類の税金があります。

消費税を求める方法

事業譲渡の場合では、買い手は譲渡対象資産の中に課税対象の物がある場合に、その分の消費税を支払わなければなりません。消費税の対象となる資産は、主に4つあり、「棚卸資産」「有形固定資産(土地を除く)」「無形固定資産」「のれん(営業権)」の4つです。

その一方課税対象ではない、非課税対象の資産は3つあり、「土地」「有価証券」「債権」の3つです。事業譲渡の際に課される消費税の金額は、事業譲渡金額に消費税率10%を乗じて求められます。

登録免許税・不動産取得税を求める方法

事業譲渡で、譲渡対象資産に不動産が含まれる場合は、買い手に登録免許税や不動産取得税が課されます。まず登録免許税とは、不動産や会社などの登記または登記の際に課税される税金の事です。

譲渡を行う対象に土地が含まれているような場合では、土地の所有権移転登記をしなければなりません。また、土地の売買によって課される登録免許税は、土地の価格 x 1.5%で求めることができます。

続いて不動産取得税とは、不動産(土地や建物)を取得した場合に、取得した人を対象として課税される税金の事です。

基本的には有償、無償、登記に関係なく発生するものですが、特定の場合(相続など)では課税されない事があります。また不動産取得税は、取得した不動産の価格の3%で求めることができます。

法人税等を求める方法

事業譲渡を行う場合では、譲渡する資産と負債の簿価の差額(純資産)を譲渡金額が上回った場合にはその利益に対して他の所得と合算して法人税が課されます。

例をあげると譲渡対価が7億円、譲渡する資産と負債の差額4億の場合では、事業譲渡益は3億円です。この条件で他に所得が無い場合は、この3億円に法人税実効税率29.74%(外形標準適用法人の場合)を乗じて法人税等を求めることができます。

また資本金が1億円以下の外形標準適用外法人の場合は、法人税実効税率34.59%を乗じて求める事ができます。

売手に発生する税金

売手に発生する税金は、個人の場合と法人の場合で変わります。それぞれ解説していきます。

個人が事業譲渡する場合

売手には、所得税が課せられます。所得税は譲渡する資産によって総合課税か分離課税かが変わります。営業権を譲渡した場合の所得は譲渡所得(総合課税)となり、土地建物を譲渡した場合の所得は、譲渡所得(分離課税)です。

法人が事業譲渡する場合

売手には法人税等が課せられます。法人税等は、事業譲渡を行う場合では、譲渡する資産と負債の簿価の差額(純資産)を譲渡金額が上回った場合にはその利益に対して他の所得と合算して法人税が課されます。

例をあげると譲渡対価が7億円、譲渡する資産と負債の差額4億の場合では、事業譲渡益は3億円です。この条件で他に所得が無い場合は、この3億円に法人税実効税率29.74%(外形標準適用法人の場合)を乗じて法人税等を求めることができます。

また資本金が1億円以下の外形標準適用外法人(超過税率)の場合は、法人税実効税率34.59%を乗じて求める事ができます。

買手に発生する税金

買手に発生する税金は、個人の場合と法人の場合で変わります。それぞれ解説していきます。

個人が事業譲受する場合

買手には、➁消費税と➂登録免許税・不動産取得税が発生します。また事業譲渡の対象かつ課税資産に対して10%の消費税が発生します。また一方で非課税資産である土地などには消費税が発生しません。事業譲渡の対象である全ての資産が5億円で、非課税資産が2億円の場合は以下の計算になります。

(5億円 – 2億円) x 10% = 3,000万円

上記の計算の結果3,000万円が消費税額です。また納税を行うのは売手側になりますが、消費税額を買手である事業譲受側から徴収し、申告時に納付する流れです。

登録免許税とは、不動産や会社などに関して登記や登記を行った場合に課される税金を指します。譲渡する対象に土地がある場合は、土地の所有権移転登記をしなければなりません。

また土地を売買する際に発生する登録免許税は、土地の価格に1.5%を乗じた金額が登録免許税となります。不動産が含まれる場合は、不動産取得税が発生し、不動産の価格に3%を乗じた金額は不動産取得税になります。

法人が事業譲受する場合

買手には、個人の場合と同じく➁消費税と➂登録免許税・不動産取得税が発生します。

株式譲渡で必要になる税金

株式譲渡の場合は、基本的に売り手に税金が発生します。また個人株主と法人株主の場合で課税方法が違うため、解説していきます。

個人株主の場合に課される税金の計算方法

個人株主が株式譲渡をすることにより発生する税金は譲渡所得に所得税、復興特別所得税、住民税を乗じて求められ、以下の通りの税率が適用されます

  • 所得税:15%
  • 復興特別所得税:0.315%
  • 住民税:5%

合わせて20.315%の税率が株式売却の所得に課されます。また譲渡所得は株式の譲渡価格から株式の取得費用や手数料などの必要経費を差し引いて計算されます。例をあげると株式の売却価格が6,000万円、株式の取得費用が2,500万円、売却時にかかった手数料が500万円とした場合

株式の売却価格6,000万円 – (株式の取得費用2,500万円 + 売却時の手数料500万円) = 3,000万円

となりここに20.315%をかけます

譲渡所得3,000万円 x 20.315%  = 609万4,500円

課される税金は、609万4,500円と求めることができます。また個人株主の株式譲渡で課される税金は、そのほかの所得に影響される事がなく、それよって金額が変動しない点が特徴と言えます。更に累進課税のような、所得に応じて税率があがるというようなこともありません。

法人株主の場合に課される税金の計算方法

法人株主に対して課される税金は、株式譲渡益だけでなく、そこに本業で稼いだ利益と合算した所得金額に法人税実効税率の29.74%(外形標準適用法人の場合)を乗じて求めることができます。

法人株主の場合は、本業での所得が赤字だった場合は、株式譲渡益と損益通算できることが特徴と言えます。例をあげると、株式譲渡益が3億円で、本業での所得が赤字で3億円というような場合では、所得金額が0円と計算されるため、所得に対する税金は0円です。

買手にも税金が発生する場合がある

通常よりも安い価格で株式を譲るような場合では、買手に贈与税や法人税が課される場合があります。

個人株主の売手が個人株主の買手に対して、普通より著しく安い価格で株式譲渡を行った場合には、買手に贈与税が課される事になります。贈与税を計算する方法は以下の通りです。

(適正時価 – 実際売買価額)  x 贈与税率 = 贈与税

贈与税率は、贈与の金額に応じて変わり、最低でも10%(200万円以下の場合)〜最大55%(3000万円を超える場合)の間で変動します。

また贈与税には、基礎控除が110万円あり、贈与の合計額から110万円差し引かれる事になります。株式譲渡に課される税率の20.315%と比較した場合、贈与の額に比例して高い税率がかかってしまうため注意が必要です。

株式譲渡をしたときに確定申告が必要ないケース

株式譲渡による所得がある場合は、確定申告が必要になりますが一部例外があります。

株式市場で取引されている株式の売買をする場合には、証券会社の口座が必要になります。そして証券会社で開設する口座には種類があり、「一般口座」「特別口座(源泉徴収あり)」「特別口座(源泉徴収なし)」の3種類です。

この中のうちの「特別口座(源泉徴収あり)」の場合では、株式譲渡で得た利益を自動的に口座内で源泉徴収してもらえるため、確定申告の必要がありません。それ以外の口座の場合では、確定申告が必要となります。

組織再編で必要になる税金

組織再編で必要になる税金は、税制適格要件と言われる物を満たしているM&Aであれば課税されません。

これは税制適格要件を満たす場合は、資産と負債をそのまま帳簿価格で引き継ぐという税務処理が行われるので、いわゆる売却損益が発生しないため、税金が課される事もありません。この条件を満たすM&Aは6種類あり、以下の通りです。

  1. 適格新設合併
  2. 適格新設分割
  3. 適格吸収合併
  4. 適格吸収分割
  5. 適格株式交換
  6. 適格株式移転

上記の6種類です。また税制適格要件を満たしていないM&Aについては、非適格吸収合併と呼びます。こちらは単体に資産と負債を時価で計算して引き継ぐ税務処理が行われるので、売却損益が発生して、税金がかかります。

税制適格となる要件

税制適格の要件は、大きく分けて3つに分類されます。

  • 持ち株比率が100%支配関係にある企業内の組織再編成
  • 持ち株比率が50%超の支配関係にある企業内の組織再編成
  • 共同事業を行う場合の組織再編成

ここでは、この3種類についてそれぞれ解説していきます。

持ち株比率が100%支配関係にある企業内の組織再編成

持ち株比率が100%支配関係にある企業が組織再編成を行う場合には、以下の2つの要件を全て満たした場合、税制適格となります。

  • 対価が株式のみの場合
  • 組織再編後も持ち株比率100%の支配関係が継続する

例を挙げると株式交換を用いて100%子会社化するような場合で考えると、税制適格を目指す場合は、対価として金銭ではなく、株価であり、そのうえで株式交換のあとに子会社の株式を保有し続ける必要があります。

持ち株比率が50%超の支配関係にある企業内の組織再編成

持ち株比率が50%超の支配関係にある企業の組織再編成を行う場合は、以下の5つの要件を全て満たした場合、税制適格となります。

  • 対価が株式のみの場合
  • 組織再編後持ち株比率が50を超える支配関係が継続する
  • 資産や負債などを引き継ぐ場合
  • 従業員のおおむね80%が引き継がれる場合
  • 移転した事業を続ける場合

上記を全て満たした場合は、税制適格となります。

共同事業を行う場合の組織再編成

これは支配関係がなかった場合でも、共同で事業を行う企業が組織再編を行う場合には組織再編税制を適用することができます。共同事業の場合は以下の7種類の要件をすべて見た出した場合は、税制適格となります。

  • 対価が株式のみの場合
  • 組織再編後持ち株比率が50を超える支配関係が継続する
  • 資産や負債などを引き継ぐ場合
  • 従業員のおおむね80%が引き継がれる場合
  • 発行株式総数の80%以上を継続して保有することが想定される場合
  • 移転した事業と関連性がある場合
  • 移転した事業を続ける場合

上記を全て満たした場合は、税制適格となります。

国際間取引(クロスボーダー)での税金について

ここまで国内での税金の解説をしてきましたが、国をまたぐような取引ではどうなるでしょう。

それぞれの国の税法はそれぞれの国の課税権を元にして定められています。しかしこれは国境を越えて取引をするような場合では、国際間での税務に問題が起きてしまいます。

そのため、2つの国から課税を受けるような二重課税であったり、逆にどちらも課税を受けないような二十非課税が起きてしまわないようにルールが設けられており、それは外国税控除や租税契約などです。

これにより二重課税などの問題が起きることを防止しています。

しかし現在の流れでは、法人税率が少ない国に所得を集めて、企業に課される税金を減らす所謂租税回避が問題となっていて、タックスヘイブン対策税制や移転価格税制などの規制が世界規模で進んでいます。

M&Aにおける税金対策

M&Aを行った際に課される税金を軽減する方法がいくつかありますので、ここでそれぞれ解説していきます。

役員退職金を使った税金対策でM&A

M&Aを行う際に使える税金の1つとして、株式譲渡を行う際に役員退職金を活用して所得税を減らす方法があります。

この方法は売手が対象の株式を保有していて、更にその会社の役員を務めている場合に利用できる方法です。

方法としては、M&Aをする前に、対象となる会社が売手の役員に役員退職金を支払ったのちに、支払った役員退職金を差し引いた金額でM&Aを行うという方法です。

この方法で重要になるのは、退職金を受け取ると退職所得となり、株式売却益を受け取ると譲渡所得になるという点です。

この2つの所得の計算方法と税率に差があるため節税ができるということです。株式の譲渡所得は20.315%の税率がかかりますが、退職所得は以下の方法で計算されます。

➀(収入金額(源泉徴収される前の金額) – 退職所得控除額) x 1/2 = 退職所得の金額

➁退職所得の金額 x 所得税率(累進課税)

上記の方法で計算されます。退職所得は、退職金が一時的に多くの所得が生まれる事となり、そのまま課税されてしまうとその後の生活に困る事になってしまうため、退職所得控除額が大きめに設定されているのが特徴です。

そのうえで退職所得の金額を求める際に1/2をかけるため、所得税が高くなってしまわないようなルールになっています。譲渡所得に課される20.315%と比べて、税金が安くなるように役員退職金をコントロールする事で売手側の節税を行う事が出来るでしょう。

しかし、累進課税のためひたすら役員退職金を高くすればいいわけではない点には注意が必要です。実際に行う際には、税理士などの専門家に相談しながら、役員退職金を使った節税について検討すると良いでしょう。

株式譲渡ではなく第三者割当増資でM&A

株式譲渡の代わりに第三者割当増資を行う事で税金を抑えられる場合があります。対象の会社が買手に対して持ち株が50%を超えるように第三者割当増資を行うと買手に経営権を移す事が可能です。この方法では、売手は現金を得ることができず、対象の会社は増資によって資金が増えます。

この結果、売手の株主に対しては課税が発生せずに、さらには対象の会社に損益も発生しないのが特徴です。しかしM&Aを実行した後も少数株主として売手が残る点や、増資後の登記申請が必要になる点には注意が必要です。

M&Aでの税金の申告期間

M&Aで課される税金についての申告時期は、個人と法人かによって異なります。

個人に課税された税金に関しては、株式譲渡を行った翌年の2月中旬から3月中旬頃に行われる確定申告にて納税しなければなりません。また法人の場合であれば、事業年度が終了した翌日から2か月以内に納税する必要があります。

まとめ│場合や手法によっては節税できる

ここまでM&Aに課される税金や確定申告の方法などについて解説してきました。

M&Aで課される税金は、事業譲渡か株式譲渡、その他の組織再編、個人か法人か等によって様々です。事業譲渡であれば、外形標準適用法人の条件である資本金が1億円以上または中小企業として扱われる1億円未満かで税金が変わってきます。

また役員退職金や第三者増資を活用して節税できる場合もあります。M&Aを行う際には、その様な部分も含めて専門家への相談が大切と言えるでしょう。

またPASONでは、M&Aのマッチングプラットフォームを展開しています。M&Aや事業承継に興味がある方や「会社を売りたい」「事業を買取りたい」とお考えの方は、お気軽にお問い合わせください。

監修者情報

板井 理
板井 理

2018年度公認会計士試験に合格後、EY新日本有限責任監査法人札幌事務所に入社、その後3年間法定の会計監査業務に従事。
2022年に退職し、2023年に共同代表である笹本 拓実と株式会社PASONを設立。代表取締役に就任し、小規模M&Aに特化したマッチングプラットフォームサービス「PASON」を運営している。